第 1 話
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「悪いけど、今は話せないんだ。少なくとも君達がどちらに付くかはっきりするまで」
「どちらって…?」
「僕達か、敵か。でもね、君の考えている通り、僕らは君のお兄さんを追ってきたんだよ。で、あの場所に出くわしたわけ」
「何故?」
「それは…ん?」
答えかけて、潤也は何かに気づいたかのように、窓の外を見やった。先に寛也がそれを口にした。
「おい、運ちゃん、道が違うぞ」
「…」
返事はなかった。助手席の潤也が顔を覗き込んで、息をのむのが分かった。
「ヒロ、その子を…」
言い終わらない間に、寛也は真ん中の杳を乗り越えて、翔の横に来る。そして、翔の腕をつかむ。
「目、つむって、歯を食いしばってろ」
「は?」
言うが早いか、タクシーのドアを開けた。無謀にも、寛也は走っている車から翔をかかえたたま、車外へ飛び出した。
「うわあぁぁっ」
飛び降りた丁度そこは、土手だった。アスファルトでなかったことは幸運だった。
二人は、草の上をころころと何回も転がって、土手の下でようやく止まった。
「おい、平気か?」
先に起き上がった寛也が翔に声をかける。それと同時に軽く肩を触られて、激痛が走った。飛び降りた時、左肩をぶつけたようだった。
痛がる翔を、寛也は人の悪い笑みで見やって。
「折れてるかもな」
「ええーっ?」
聞いただけで、翔は目の前がクラクラしてきた。そんな翔を気にせず、寛也は土手を駆け上がった。見やったそこには、タクシーのテールランプが遠くに見えただけだった。
「くっそーっ」
「一体どうなってるんですか?」
「…あいつらだな」
「あいつら?」
寛也は少し考えるふうをしてから、同じように土手を上がってきた翔に眼を向けてきた。
「ジュンのことだから大丈夫だと思うけど…それより坊主」
「葵翔」
さっきから寛也は翔のことを「坊主」としか呼んでいなかった。それが、自己紹介をしていないからだとようやく気づいた。
「まずは傷の手当だな」
寛也はそう言って、翔の腕を無造作に掴んで、持ち上げた。
「うっく…」
その余りの痛さに、翔は辺りはばからず叫び声を上げて、気が遠くなっていった。
「ったく、情けねぇな。っとに、こいつも一族なのか…?」
翔を抱きとめながら呟く寛也の声を遠くで聞いた。
* * *