第 1 話
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タクシーを拾って元の場所へ戻ると、ジュンも一緒に待っていた。不審な顔を向ける翔に、何事もなかったように笑顔を向けてくる。
「手伝えよ、坊主」
言われて、ヒロとは反対側の杳の腕を担いで、支える。何とかタクシーに乗せると、運転手が不審そうに問いかけてきた。
「どうかしたんですか?」
それもそうだ。こんな時間に高校生にしか見えない連中を乗せるのだから。が、それを予測していたのか、ジュンが平然と返した。
「ちょっとそこで、気分が悪くなったんです」
「お前が飲ませ過ぎたからだ」
すかさずヒロが追い風を向けた。
「ヒロだって面白がってたじゃない」
「ああ、分かったから。早くしろ。こんな所、補導でもされたら退学もんだぜ」
「もうっ」
テンポの良い双子の会話を、翔は呆然として聞いてしまった。
「こらっ、お前も来いっ」
「あ、はいっ」
言われて、慌ててタクシーに乗り込んだ。
杳を挟んだ向こう側にヒロ、助手席にはジュンが座った。
いやに場慣れして落ち着き払っている双子に、翔は不審な眼を向けた。
「あんた達、一体…」
いぶかしむ翔に答えたのはジュンだった。
「葵くんの…君のお兄さんのクラスメートだよ。君は知らないかも知れないけど。でも、名前くらいは聞いたことあるんじゃない? 結崎(ゆうざき)って言うの」
「結崎?」
聞き覚えはなかった。
「お前らと同じだよ」
首を傾げる翔に、ヒロが言う。ますます訳が分からない翔に、ジュンが苦笑混じりに自己紹介をした。
「僕は潤也(じゅんや)。そっちの無神経なのは、兄貴の寛也(ひろや)」
「お前なぁぁ」
軽く笑いながら言う潤也に、翔は後部座席から低く聞く。
「偶然ですか?」
「えっ?」
「あの場所に居合わせたのは、偶然ですか? それとも…」
「さぁてね」
軽く答える寛也を、翔は睨む。それをふんと鼻で笑って。
「お前こそ、兄貴を追って来たのか? それとも…」
言い方が気に入らなかった。
「降ろしてください」
突然の翔の言葉に、今度は潤也が寛也を睨む。
「ヒロ、変なこと言ってんじゃないよ」
「ふんっ」
面白くなさそうにそっぽを向く寛也。それを見やってから、潤也は翔に言う。