第 1 話
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「兄さんっ」
ひざまずいて、呼んでみた。が、反応はなくて。
「君は…葵くんの弟?」
ジュンと呼ばれた方が聞いてきた。顔を上げると、笑顔を向けられた。その顔に、翔は、もう一人の少年の顔を見る。
同じ顔をしていた。双子なのだろうか。
「お兄さんは大丈夫だよ。気を失っているだけで、大して怪我もしていないから」
翔を安心させるように浮かべる柔らかな笑みに、随分印象の違う双子だと思った。
「とにかく、こんな所で人に見つかったら大変だ。帰ろうぜ」
「オーケー」
その時。突然バシッという何かを打ちすえる音ともに、翔の足元に火花が散った。
「うわっ」
思わず後ずさる翔。
「見つかったか…」
舌打ちして、ヒロと呼ばれた少年が上空を見上げた。それにつられて見上げた翔の目に、ビルの屋上に、月の光を背にして立つ幾人もの人影が見えた。
「ヒロ、二人を頼んだよ」
「ああ」
ヒロのうなずくのを見てから、ジュンは天上を見上げた。何が起きるのかと見やる翔の目の前で、そのジュンの身体をオレンジ色のオーラが包みこんでいった。一瞬、炎の中にでも立っているかのような錯覚を覚えた。その光が輝きを増したかと思うと、ジュンの姿は人とは別の形を取り始めた。
翼を持つ、巨大な鳥がそこに出現した。
巨鳥は大きく翼を広げたかと思うと、風を起こして、天へと舞い上がった。一条の光の尾を引いて。
「ぼーっとしてるな。逃げるぞ。来いっ」
ヒロの声に振り向くと、杳を肩に担ぎ上げ、ジュンの方を振り返ることもなく駆け出していた。
慌てて後を追う翔。
「あの人、一体…」
追いついて、ヒロの顔を覗き込んだ。が、ヒロは無表情なままで何も返しては来なかった。
翔は、後方を振り返ってみた。先程の火柱がまだ赤い炎を立ち上げていた。その手前に、もうひとつの炎が見えた。
あの姿は――。
炎はビルの上の人影を飲み込んでは、次々に地面へ突き落としていく。その様に、背筋が寒くなる気がした。
一体、何だと言うのだろうか。
「くそーっ、これじゃダメだ。おい、坊主っ」
人一人を背負って走るのはかなりの体力を必要とするのだろう。ヒロは立ち止まって、荒い息をつきながら額の汗を拭った。
「通りへ行って、タクシー、つかまえて来い」
「えっ、でも…」
翔は杳の方を見やる。側を離れたくなかったのだが、ヒロに怒鳴られた。
「早くしろっ」
「あ…はいっ」
もう、何がなんだか訳が分からなかった。
* * *