第 1 話
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「ね、杳兄さん。帰ろうよ。父さんも母さんも心配して…」
伸ばした手は、するりとかわされた。
「心配してる訳ないだろっ。子どものくせして、こんな時間うろつくんじゃない。帰れ」
「兄さ…」
「リョウ、今日は出崎の方まで行こう」
杳がさっきの男にそう声をかけると、彼は今までの不機嫌そうな表情を和らげる。
「OK。じゃあな、坊や」
翔を押しのけるようにして、全員が店を出て行く。その隙間から、リョウと呼ばれた男が、杳の肩に手を回しているのが見えた。
ひどく、嫌な気分がした。
「待って…」
翔も追って、外へ出た。先程のリョウのバイクの後ろにまたがる杳を見つけると、駆け寄ってその服の袖を捕まえた。
「ダメだよ。行っちゃ、ダメだ」
「放せよ、翔。もう二度と来るな」
言い様に、翔を突き飛ばした。
よろけて尻餅をつく翔を尻目に、バイクの一団が動き出した。リョウのバイクを先頭にして、轟音を撒き散らす。
あっと言う間に去っていった一団の後ろ姿を睨みながら、翔は立ち上がる。
「逃げたって、必ず連れ戻すからね、杳兄さん」
握りこぶしして呟く翔は、ふと肩を叩かれた。何げなく振り返るとそこに、知らない男が立っていた。腕には『補導員』と書かれた腕章が見えた。
「げっ」
「君、学校と名前は?」
翔は何も言わず、そのままダッシュをかけた。
「あ、こらっ、待ちなさいっ」
こんな所で掴まっては大変だと、一目散だった。
と、その時だった。背後で爆発音が聞こえたのだった。驚いて振り返ると、そこに巨大な火柱が上がっていた。
それは、たった今バイクの一団が走って行った方向だった。
――まさかっ!
翔は、呆然とそれを見上げる補導員の脇を擦り抜けて、火柱の上がる方へと走った。補導員が翔を止めようとする声を無視して。
火事ではない。ガスでも爆発したわけでもないだろう。まるで、ミサイルでもぶち込まれた程の爆発に思えた。一体何があったのか。
あっと言う間にできた人だかりの向こうで、炎が幾つものビルを包みこんでいく。