第 1 話
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夜の歓楽街は、ネオンでまぶしいくらいだった。その一角にある店のドアを開けると、中からは賑やかな音楽が聞こえてきた。
葵翔(あおいしょう)が中へ入ると、一斉に中の客が振り返った。多分、こんな時間にこんな場所へ学生服姿の高校生がやってくるのが異様に思えたのだろう。向けられたのは、好奇な眼ばかりだった。
「何の用だい、坊や?」
カウンターにいた濃い色のメガネをかけた男が聞いてきた。いかにも場違いだからとっとと帰れと言いたそうでもあった。
そんな店員を無視して、翔は黙って店の中を見回す。どれもこれも自分から見れば柄の悪そうな人達にしか見えなかった。
「誰か捜してるのかい?」
「…ここに葵杳(あおいはるか)って人、よく来るんでしょ?」
「はるかー?」
その名に、奥の方で戯れていた一団が振り返った。
「お前、杳の何だ?」
その中で、一番奥で踏ん反り返っていた男が、口を曲げながら、ドスの効いた声で聞いてくる。
翔はその男へ向かって真っすぐに歩み寄っていった。正直言って、まるっきり怖くない訳ではなかったが、こんな連中は怖がるに値しないとも思っていた。
「どこにいるか知ってますか?」
「ああ、知ってるさー」
「教えてください」
「教えてもいいが、お前…」
「翔…?」
と、背後から聞き覚えのある声が翔を呼んだ。振り返ると、そこには革の上下を身につけた痩身の少年が立っていた。
「杳兄さんっ」
思わず駆け寄ろうとする翔に、冷たい声がかけられる。
「何しに来た?」
やっと見つけたと喜ぶ翔に、彼は突き放すようだった。
「捜してたんだよ。学校にも行ってないし、家にも帰って来ないし…あちこち、ずっと…」
「帰れよ。ここはお前が来るような所じゃない」
「やだよ。一緒に帰ろうよ」
そう言って杳の手を取ろうとした。が、その手は何かに脅えたような杳に打ち払われた。
「どうして…?」
顔を背ける杳に触れようとして、背後から首根っこを掴まれた。見やると、さっきの男が翔のすぐ後ろに立っていた。
「坊や、杳は帰らねぇとよ。さ、帰った、帰った」
ハエでも払うように手をヒラヒラさせて翔を追い払おうとする男を、翔は睨みつけてから杳に聞く。
「何が不満なんだよ? どうしてこんな奴らと付き合って…どこが面白いって言うんだよ?」
「こんな奴ら?」
周囲にいた者達が、翔の周りに群がる。それに構わず、続けた。