序
奇麗な顔が、恐怖と苦痛で歪んでいく。その様は、何とも言えない程に美しかった。
夕暮れの朱色に染まった町の中で、同じように染まっていくその白い腕、白い足。その悲鳴すらもかき消す程に見る者の目を奪った。
それは、真っ白な雪原を足跡で踏みにじってしまいたいと言う衝動にも似ていた。そんな無慈悲で残酷な心で、汚されていった。
そして、異変はその時起きた。
それまで白かった肌が、次第に青みを帯びてきた。陽が沈んだ後の目の錯覚とも見えないこともなかった。しかしそれは、確実に青さを増していった。
その頃になってようやく彼らの一人が異変の前兆に気づき始めた。
「おい、こいつ、何かおかしいぞ」
「何が? どこもおかしくは…」
彼らの言葉は最後までつづられることはなかった。
青い光が辺り一帯を染め、彼らをその中に包み込んだ。
凄まじい断末魔の悲鳴が辺りに轟いた。
青い光はやがて形を作っていく。細長く、巨大なものに。
それが、声もなく鳴いた。既に肉塊となった残虐者を目に、苦しみ、もがくように、悲しい声がこだました。