第 9 章
守るべきもの
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「何か、久しぶりにのんびりしたって感じ」
杳はそう言うが、実のところ、あの日、寛也が学校を壊してから10日しか経っていない。
随分長い時間だったように思えたのだが。
何だか色々あり過ぎて、時間の感覚も麻痺してしまったのだろうか。杳と阿蘇で出会って一週間しか経っていないなんて嘘のようだった。
もっとずっと昔から知っていたような気がした。
停めたバイクに軽く身を預け、海を眺めている杳の横顔をぼんやり見ていると、振り返った杳と目が合った。
「何?」
「別に…」
慌てて目を逸らして、水平線を見る。
遠くに見える半島に、陽が身を寄せていくのが見えた。
ここは日没が一番良く分かる場所なのだと寛也は気づいた。杳はギリギリまでここにいるつもりなのだろう。
とすると、帰りは必然的に別々になるのだろう。
そんなことを考えていると、ふと、声をかけられた。
「ね、ヒロ」
振り向くと、杳は陽光を反射する海面を見ていた。
「オレ、人が怖いんだ。かなり慣れないと誰にも近づけなくて。だから小さい頃は福井の翔くんの家へ預けられてた。田舎の山奥だったから、人も少なかったし。でも、翔くんが小学校に上がる前に、町の方がいいからって、家を建てて。それで、オレ、ここに戻って来たんだ」
そんな話、初めて聞いた。寛也は、杳の事を随分分かっていると思っていたが、本当は何も知らなかったのだと気づいた。
そう言えば、目の前の事ばかりに気を取られていて、自分も何も話していない。
お互いの事を何も知らないまま、ここまで来たのだ。
「でもね、ヒロには平気だった。初めから側にいても安心できたんだ。何でか分からなかったけど…」
意外な言葉に驚いていると、杳が振り返る。
真っすぐに見つめてくる瞳、深い深い思いの沈む瞳。
「ね、ヒロ。また、守ってくれる?」
「え?」
「ヒロのことも、みんなのことも全部忘れても、オレのこと、守ってくれるよね?」
少し不安そうに見えた。いつも自身たっぷりで、こうと決めたら誰の言葉も聞き入れず、我がままで、自分勝手で。
そう、思っていた。
でも、本当は――。
その下に隠していたものは――。