第 9 章
守るべきもの
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「俺にも、乗れそうだな…」
「えっ、ヒロ、バイク乗りたいの?」
「うーん、ま、ちょっと」
「免許、持ってるの?」
「いや。でも、この辺りじゃ車も少ないだろうし、平気じゃないかと思って」
「ぶつけられるからヤダ」

 軽い気持ちで言ったことを、杳は本気で嫌がっていた。

 が、すぐに表情を崩す。

「でも、後ろだったら乗せてやってもいいよ」

 予想していなかった杳の言葉に、驚く。

 その間に、杳はポンとベッドから立ち上がった。勢いつけたためか、ふらりと身体が揺れて、寛也はそれを慌てて支えた。

「おい、大丈夫か? やっぱ、まだ寝てろ」

 その寛也の腕を、杳はやんわりと押し戻す。

「平気。一日中寝てたから、身体がなまってるだけだから」
「お前の『平気』は、全然平気じゃねぇからな。もういいから、寝てろって」
「だって、忘れるんだよ」

 言って、顔を逸らす。

 机のフックにかけていたバイクのキーを取って。

「ヒロのこと忘れたら、もう乗せてやれないだろ? それとも、オレの運転じゃ、心配?」
「あ…いや…」

 それよりも、ふらついている杳の方が心配だった。昨日の今日ではあるし。

 何か良い切り返しがないかと考えている隙に、杳が寛也の腕を取った。

「ヒロの背中に乗るよりはよっぽど安全運転だから」

 いつもの口調に、寛也はひどく安心をしてしまう自分を感じた。

「言いやがる。こけたら、承知しねぇからな」

 そう返すと、杳の表情が明るくなった。

 本当に分かりやすいと思った。


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