第 9 章
守るべきもの
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寛也の家から杳の家まで、国道を通るバスに15分間乗って、その後、停留所から30分歩く。そこからのバスもあったが、30分後では歩いても同じだった。別ルートの直通バスも通っているのだが、あちこち巡回するので1時間近くかかる。すこぶる便利が悪かった。
「どーゆー所に住んでんだ、あいつは」
杳と同じ中学出身の同級生に地図を書いてもらって、それを片手にトボトボ歩くのは、自転車歩行者専用道路。
広がる田園風景には、今、大麦が収穫期を迎えていた。
黄金色に光る大地。
見上げれば、よく晴れた青銀色の空。
麦の穂の香に混じって、初夏の匂いがした。
* * *
うとうとしていたと思ったら、来客のチャイムの音に目を覚ました。
「…もう、夕方…?」
見上げたベッドのラックに置いている時計に目をやり、まだだるくてしゃんとしない身体を持て余して、寝返りを打つ。
身体の傷は紗和と潤也のお陰で、完治状態だった。傷口は、塞げば塞がるのだ。が、失った体力はそうそう戻らなかった。
ここのところ、夜もろくに寝ていなかったり、移動が多かったりで、ケガをする以前に、かなり疲れ果てていたのかも知れない。
そんなことを考えながら、また、うつろうつろしていた時、ドアをノックされた。
誰だろう。翔が帰ってきたのだろうか。
「どーぞー」
ベッドから起き上がることなく返事をして。
「翔くん、ゴメン。オレ、今日やっぱり…」
言いかけて、杳は部屋に入ってきた人物にびっくりして跳び起きた。
「…ヒロ」
「悪ィ、寝てたか? お前んちの母さん、上がっていいって言うから」
「う、うん…」
ベッドから出ようとすると、止められた。
「これ、届けに来ただけだから。すぐに帰るから寝てろって」
寛也はプリントの束をバサリと机の上に置く。
顔を会わせることをせず、居心地悪そうに、辺りをキョロキョロ見回す寛也。
「結構片付いてんな、お前の部屋」
「…うん」
「おおっ。こっからも見えるな、ど田舎の風景」
「…」
「お前の中学から来てる奴、結構多いのに、家、あんまりないな。信じらんねぇ」
「…あの…ヒロ?」
「おまけに停留所からすっげー遠いし。俺、30分近く歩いたんだぞ」
寛也の意味の分からない言葉に、杳はだんだん眉をしかめていく。
「ヒロ、何しに来たの?」