第 9 章
守るべきもの
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 破壊された校舎の代わりに、3年生はプレハブ校舎が用意された。2年生は体育館に椅子だけ並べて合同授業だった。1年生は同じく格技場で正座していると聞いた。

「あちぃな、ここは」

 いくら窓を開けても400人近くいる生徒が集まれば、体育館は、息苦しく、なおかつ、蒸し風呂状態だった。

 休憩時間に自宅から持ってきたうちわも、熱風しか送らなかった。

「ヒロが言っちゃダメだろ」

 潤也が呆れて言う。校舎を破壊した張本人に向かって。

 隣に座した潤也は、寛也が逃げ出さずにちゃんと授業を受ける為の監視だった。

 その潤也に多少うんざりしながら、寛也は何となく辺りを見回した。

「あいつ、来てないんだな」

 ボソリと言った言葉に、潤也は教科書から顔を上げないまま答える。

「杳なら、今日は欠席だって。昨日の今日だからね」
「…何だ、あのチビ、一日やるって言うから強引にでも引っ張ってくるのかと思ったのに」
「翔くんがそこまで親切なわけないじゃない」

 呆れたように返す潤也に、舌打ちをする。

 ならば、どうしろと言うのか。

「ヒロが会いに行けば?」
「はあ? 俺が? 何で?」

 間抜けた声で聞き返す寛也の足を、潤也は取り敢えず、踏み付けた。


   * * *


 結局、一日待っても杳は登校してこなかった。

「帰るんですか?」

 体育館の下足置き場で運動靴に履き替えていると、声をかけられた。振り返ると、翔が立っていた。

 詰め襟が大きいのが笑いを誘ったが、我慢して、寛也はそっぽを向く。

「結崎さんっ」

 無視して帰ろうとする寛也に、慌てて追いつく翔。

「待ってくださいよ」
「俺達は無関係だろ。話しかけんじゃねぇよ」

 並んで歩こうとする翔に、引き離そうとする寛也。

 追いつくのを諦めた翔は、寛也の背中に話しかける。

「杳兄さんが待っています」

 ピタリと寛也の足が止まった。

「僕は転校手続きがまだ残っていて、もうしばらく帰れませんから、日没まで杳兄さんの話し相手でもしていてくれませんか?」

 それだけ言って、翔は背を向ける。

 今度は寛也が振り返った。

「どいつも、こいつも、杳、杳って。分かってんのか? あいつ、男だぞ」

 翔に聞こえたものかどうか、片手を挙げて応えただけで、すぐに教員室のあるプレハブ校舎に消えてしまった。

 それを見送って、寛也は舌打ちする。

「せめて女の子だったらな…」

 呟いて、あの性格では、どちらにしても目も当てられないと思い直す。

「仕方ねぇな…」

 休んでいた間の杳の分のプリント一式を潤也に頼まれたし、翔にも言われたし、別に今日も部活をサボっても、いつものことだし。

 色々と言い訳をつけて、寛也はカバンをかつぎ上げた。


   * * *



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