第 9 章
守るべきもの
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その言葉に、杳はふと、気になっていたことを口にする。
「里紗の記憶も消したんだってね?」
「それは新堂さんが…」
「オレも…?」
聞かれて、翔はしまったと思ったが、何とか取り繕う。
「他にペラペラしゃべらないんだったら、杳兄さんくらいは…」
「そっか…」
翔の様子から、理解できた。
ゆっくり立ち上がり、ベッドの上へ座り込む。
「勾玉、壊れたからな」
あの時、意識はなかった。それなのに聞こえてきた翔達の会話。自分を助ける為に勾玉を壊してしまった事を。
そして、勾玉が壊れるとともに、感じたもの――あれは、古い記憶を思い出した瞬間に似ていた。
古びた記憶に未練はない。
でも――。
「いつ消されるの? 今すぐ?」
「それは…」
言おうか言うまいか迷って。
「明日の日没」
ポツリと答えると、杳は吹き出した。
「何それ。時限式なわけ? しかも、日没って…」
しかし翔は笑えなかった。
伝えた自分の思いも、消えてしまうのだ。自分のことを思って追いかけてきてくれたことも、人形峠でのことも。そして、多分、思い出しているだろう、あみやや、もしかしたら、綺羅のことも。
杳が、その翔の背をポンと叩いてきた。
「仕方ない。じゃあ明日は翔くんの話でも聞いてやるよ。どうせ忘れるんだから、何を言われても後腐れないから」
見返すと、さっぱりしたような顔をしていた。
「今の時季、まだ日没は早いからさ、早めに帰っておいでよ」
「うん」
うなずいて、翔はわずかに笑みを浮かべた。