第 9 章
守るべきもの
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優と辰己が姿を消すのを最後まで見送って、翔は薮の方向へ目を向けた。
途端、そこで、小さく気配が動いた。
「そこにいるのは分かっています。出て来てください」
薮に向かって声をかけるが、その気配はそこから姿を現そうとはしなかった。
その小さな気配を持つ物に向けて、非情な言葉を投げかける。
「あぶり出して欲しいんですか?」
言うと、すごすご姿を現す少女、茅晶。ずっとここで様子を伺っていたのだった。
茅晶は、竜王である翔を前に、萎縮した様子を見せる。
「あき…あみやがつけた名は、そう言いましたか?」
言われると、ピクリと肩が震えた。
「僕が気づいてないとでも思ってましたか?」
福井の家族のこと、杳と共に自分を追っていたこと、そして、竜剣のこと。
「僕が制裁を加えるよりも、警察に突き出す方が現代の日本に馴染みますが、どうして欲しいですか?」
翔の言葉に、茅晶はおびえる目を向ける。が、その口から出て来た言葉は、全く別の色をした内容だった。
「杳くんは、私に魂をくれると言ったわ。貴方には渡さない」
ひどくおびえている様子なのに、言葉だけは脅迫的だった。それが翔にはいっそう哀れだった。
「どうやら、記憶を消した方が良いみたいですね」
言って、翔は茅晶に近づく。茅晶は逃げられないと思いつつも、後ずさる。
「やめてよ。私はあみやのことを忘れたりはしない」
「君はもう鬼の子じゃないんですよ。その力も、記憶も、ない方が幸せになれます」
「貴方に、私の幸せを決める権利なんてない…っ」
翔は茅晶の正面に立って、右手の人差し指を、茅晶の額に近づける。蛇に睨まれた蛙のように、茅晶は動けなくなってしまった。
翔が、今まさに力を込めようとした瞬間だった。
「翔くんっ」
思わぬ人の声が、自分の名を呼んだ。