第 9 章
守るべきもの
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「君達を解放します」

 翔は結界の外で待っていた優と辰己に、そう告げた。突然解かれた結界の中から出現した少年に、驚く二人を前にして。

「か…解放って…?」
「勾玉のうちの一つ、黄玉を破壊しました。近く、父竜が復活します。君達は逃げてください」

 淡々とそう言う翔。しかし、二人には、一体何があったのか分からなかった。

「って、人界征服は?」

 辰己は突然の翔の豹変ぶりに、戸惑いながら聞く。

「それは、大切なものを父竜から守りきったら考えます」

 その言葉自体が、今回の終止符を意味していた。

「僕らを巻き込んでおいて、それだけか?」
「やめとけよ」

 詰め寄ろうとする辰己を止める優。辰己は彼をにらむように見返す。

「お前だって、本当はそんなこと、望んじゃいないんだろ?」
「…」

 言われて、黙って辰己は優の腕を払った。

「巻き込んで悪かったと思っています。勝手に戦いを終わらせることも、謝罪します」

 言って頭を下げる翔に、辰己は拍子抜けしたような顔を向ける。

「竜王が戦線離脱するなら…」

 辰己は諦めたように言った。

「まったく、勝手な奴だ」

 辰己の言葉に続けて優は言う。

「いつの時代も、お前の見ているものは俺達じゃなくて、人間だったからな」

 思ってもみなかったことを言われ、翔は顔を上げる。その翔に、ややからかいの籠もった調子で続ける。

「あの人間、巫女の転生者だろ?」

 更に驚く表情に、優はそれ以上問い詰めるつもりはなかった。

「巫女の勇気に免じて、ひとつだけ教えてやるよ。黄玉を破壊しなくても、父竜の復活はもう始まっている。だから、自分一人で背負い込むなよ。お前の所為じゃないんだから」

 そう言って、くるりと背を向けた。

「杉浦さん…」

 呼ばれて一瞬立ち止まっただけで、優はそのまま竜玉を天へかざした。

 それを見送って、肩をすくめる辰己。

「僕も久しぶりに帰るかな。5月病の言い訳も限界だろうから」

 言って、翔にウインクを送る。が、相手に何の反応もないことを認めて、辰己も優に習った。

 いくら人間体の外見が好みでも、中身は竜王なのだと、改めて自らに言い聞かせながら。


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