第 9 章
守るべきもの
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 結界の出口は、葦の原の向こうだった。そこを、自分の足を使って歩いていく。

「どこまでついてくる気?」

 つと、足を止めて、翔は首だけで振り返った。

 問われて、後をつけていた露は、翔に追いついていく。

「一応ね、見張り」

 露は寛也と同じで、他者への癒しの術を持ち合わせていない。あの場にいても何の役にもたたないので、みんなから離れる翔にくっついて行くことにしたのだ。

「もう分かっているだろう? 僕は人界征服なんて考えてないよ」

 相手の顔も見ずに言う翔に、露はわざとらしく返す。

「へぇ、そうなんだ? オレ、てっきりまた何か企んでるのかと思ってさー」

 露の言葉に翔が自嘲気味に笑う。それを見やっても、露の口調は変わらなかった。

「まあ、父竜が復活するかもって時に、仲間割れもないもんなぁ、リーダー」

 リーダーと言われて、翔はようやく露を振り返る。と、露はニッと笑ってくる。

「僕にはその資格はないよ」

 伏せ目がちになる翔の背を、露はポンと叩く。その力は強かった。

「あるかないかは、オレ達が決める。選ばれた奴がオレ達のリーダーだ」
「…勘弁してよ」

 小さく言って、また歩きだす。その背に声を投げかける。

「逃げんなよ。自分が撒いた種だろっ」

 怒鳴る声に、止まる足。

「父竜を説き伏せるのは、本当はオレ達の役目だったんだ。それを綺羅に押し付けてしまった。その為に受けた罰だろ? 甘んじて受けろよ」

 その言葉に、翔は顔半分だけ振り向いて。

「…そのつもりだよ」

 それだけ言って、また歩きだした。露は肩を竦めてから、呟く。

「分かりにくい奴…」

 そう言って、翔に背を向けた。放っておいても、もう大丈夫だろう。

 本当は、責任でも感じて下手なことをしでかすのではないかと心配していたのだが。

「さて。オレも少しは、修行するかなぁ」

 一人ごちて、元気に歩きだした。


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