第 9 章
守るべきもの
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傷ついた胸部をさらして、息を飲む。
肉と表皮を突き破って覗く骨先。
こんな状態でよく息があるものだと思う間もなく、今、ボケを披露していた紗和が急に表情を堅くして、杳の横にひざまずく。
血の溢れる傷口に手をかざして、眉をひそめた。
全員の伺うような視線が集中する。
「凪、今の君の知識に医術はある?」
早口で聞かれて、潤也は慌てて首を振る。あるのは高校2年生レベルの生物の知識と、自分の身体の為に得た医学知識程度だった。
「僕もその程度だ。今、その勉強をしている間はないから、怪我の修復と、失血死しない為に、身体中の成分を集めて増血させる。後は医者任せになるよ」
誰に言うともなく早口に言うと、潤也に手伝うよう命じる。
「僕が裂けた臓器を繋げていくから、そこを治癒していって」
「OK」
潤也がうなずくのを見てから、紗和はふっと顔を上げる。
「翔くん」
呆然と立ったままの翔を見上げて、柔らかな声で言う。
「この子の手を握って、名を呼んでいてくれるかな? 魂が逃げ出さないように」
その言葉に、翔は泣きそうな表情を浮かべる。
が、すぐに首を振って。
「僕にはまだ、後片付けが残っていますから」
言って、自分と同じように、成す術もなく棒立ちの寛也に目を向ける。
「悪いですが、結崎さん、お願いできますか?」
控えめな口調だが、寛也には逆らう気を起こさせないくらい強い視線を向けていた。
寛也は突然言われ、どうして自分に振ってくるのか分からず、翔と、それから潤也を見やる。
潤也は杳の方を向いたまま、癒しの術を施し続けていて、寛也の方を振り返りもしなかった。
その一方で、翔は背を向けてしまった。
「どちらでもいいけど、早くしてくれない?」
潤也が苛々した口調で言う。
「あー、もう、何なんだよっ」
舌打ちして、寛也は言われるままに、杳の側へ寄って行った。
青白い顔をした杳の手を、そっと握って。
「杳…」
耳元で、名を呼ぶと、握った手が、寛也の手をわずかに握り返してきた。
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