第 9 章
守るべきもの
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「ヒロ、ナイフ出して」
片手を差し出してそう言う潤也に、寛也は何事かと一歩後ずさった。
「持ってるだろ? ジャックナイフ」
知らないとは言わせないとばかりに、決めつけてきた。
高校生男子の必需品なので、寛也はそれをポケットに隠し持っていた。使ったことはないが、当然の身だしなみのように持ち歩いていたのだ。
「何に、使うんだ?」
この状況で。刃物なんて、必要ないだろうと思われた。まさか杳にトドメを刺す訳でもあるまいし。
「いいから、出して」
弟が、イラッとするのを感じた。有無を言わせぬ表情をしている。
ここでシラを切れば身体検査でもしかねない勢いの彼に、寛也はしぶしぶポケットの中のものを出した。
二つ折にできる大型ナイフだ。ちゃんと手入れをしているので、刃先はピカピカだった。
それを受け取って、潤也は杳の方へ向かう。まさか本当にトドメを刺すなんてことと思いながら追うと、潤也は横たわる杳の脇へひざまずいた。
「血の苦手な人は見ないでよ」
一応言うが、既に、杳の服はあちこち血でぐっしょり濡れていた。
その杳の上着の裾を持って、ナイフを突き刺す。そのまま、パーカーを引き裂いて、続いて下のTシャツの手をかける。
「えっ、ちょ、ちょっと待って…」
周囲が何も言わない様子に、慌てたのは紗和だった。
ジロリとにらむのは潤也。この一刻を争う時に、何を言う気かと言う目付きで。
「お、女の子なんだし、せめて関係のない男は追っ払った方が…」
そう言った紗和は、全員に不審そうな目を向けられた。
「え? 何?」
代表して翔が、冷静な表情のまま教える。
「『杳兄さん』って、あなたの前で何度か呼んだことは、あったと思いますが?」
「兄さん? えっ…姉さんって聞こえてた…けど…?」
潤也は黙って杳のTシャツを引き裂いた。ボケに付き合っている余裕はないと。