第 9 章
守るべきもの
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地竜王の気が消えたと思った途端、時間が回り始めた。
風もなくなった空中で、杳の身体が下方へ落下していくのが見えた。
と同時に、寛也は一気に加速度をつけて追いかけた。
地面に着く前には十分間に合う。後はいかに早くかつ、いかに衝撃を緩和させるかだった。
果たしてあの怪我で、どこまで風圧に耐えられるものなのか分からなかった。
が、考えている間はなかった。とにかく、一刻も速く杳を捕まえることが先決だった。
こんな全速力で飛んだのは初めてだった。きっと多分、あちこちに汗の代わりに炎の束を撒き散らせている筈だろう。後で杳に何を言われることか。
いつも怒られてばかりだった。
バカバカと罵られ、乗り物代わりにされたり、機嫌の悪い時には八つ当たりされた。
とんだワガママで自分勝手な奴だと呆れながらも、その実、捨て置けない奴だった。
阿蘇で会って、ずっと旅をしてきた。一緒に。
今更ここまで来て死なせる訳にはいかない。
寛也は薄く光を放つ杳の身体に手を伸ばす。
爪で引っ掻いたりしたら目も当てられない。ごつごつしているだろう竜の手の節で、そっと布団に降ろすように、その身をすくい上げた。
ホッとしたのも束の間、寛也は胴体ごと地面に激突した。
手の中の人を放り出さないようにするのが精一杯だった。
寛也は地面に落ちた衝撃に、一瞬気が遠くなりかけるのを何とか踏ん張り、起き上がった。
杳を地面の草の上に降ろして、さっと竜体を解く。
「杳っ」
駆け寄り、抱き起こした。
その手から、コトリと何かがこぼれ落ちたのが見えた。勾玉だった。寛也はそれには触れず、気を失って入る杳の頬を軽く叩く。
が、今度は反応がなかった。
「おいっ、目を開けろよっ」
身体を揺すってみても、杳は目覚めなかった。
どうすれば良いのか。自分には大した治癒能力はない。精々、自分の身体を直すくらいしかなく、他を癒す術なんて知らなかった。
こんなことなら誰かに教えてもらっておけば良かった。
そう思った時、潤也の声が聞こえた。
「ヒロッ」
振り返ると、潤也と翔が駆けてくるのが見えた。
近づいて、杳の様子に息をのむ二人。
「杳兄さんっ」
駆け寄って、翔は目を逸らしたくなるようなその腕を取る。
「あの…それは…」
寛也が言わなくとも、寛也の炎の力で焼かれたことくらいはすぐに分かったらしい。そして、翔はそれよりも、ぐっしょりと血に濡れた胸に手を当て、瞳を曇らせた。
「何とか、なるか…?」
恐る恐る聞く。
寛也の力ではどうしようもなくとも、翔くらいならばと見やる。
その寛也を見返さず、翔は低い声で言う。
「腕の火傷は何とかなります。でも…」