第 9 章
守るべきもの
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寛也は手のひらの炎の塊を大きくする。
「――ごめん」
小さく呟いて、炎を繰り出した。
真正面を避けたが、先程衣服が焦げた辺りを狙った。そこが薄くなっているので、焼け尽くせるだろうと、ととっさに考えた。
杳の悲鳴が聞こえた。
耳を塞きたくなるような悲痛な声を聞きながら、二度三度と立て続けに炎を繰り出す。
何度目かに、触手が緩んだと思った途端、嘘のように触手の気が引いていった。
と同時に、その中から杳が吐き出されるように姿を現し、足元に転がった。
「杳っ」
駆け寄ろうとして、一瞬、身が竦(すく)んだ。
左肩から腕にかけての衣服が焼け焦げ、その下から覗く皮膚が赤黒く焼けただれ、肉が覗いていた。
その身を、そっと抱き起こす。
「おい、杳っ」
軽く頬をはたくと、眉をしかめて、僅かに目を開ける。
「ヒ…ロ…」
自由になる右手で、寛也にしがみついてきた。
「下手くそ…少しは手加減、しろよ…」
減らず口に内心ホッとしながらも、左腕の火傷と、胸からじんわりと染み出てきた赤い血に、猶予はないことを知る。
ここは地竜王を鎮めるよりも、杳の治療が先だった。
しかし、杳を抱えたて立ち上がろうとした寛也を止めたのは、杳自身だった。
「まだ、終わってない」
「ばかかっ、このままじゃ、お前が…」
「平気…」
全然平気そうには見えない顔色でそう言って、杳は天を仰ぐ。自分達を身に取り込んだままの地竜王を。
本体の方は潤也の張った結界の中を暴れているようだが、二人のいる場所は、不思議と静かだった。
「外へ、出れる?」
「あ? ああ…」
そのつもりだった。どうやって自分も入り込んでしまったのか知れないのだが、この銀色の球体から出れば良いのだったら、破壊すれば事足りるだろう。
「それじゃあ…」
杳は寛也を掴んでいた右手を放し、パーカーのポケットに入れていた物を取り出した。
「それ…」
淡く黄色に光を灯す勾玉だった。
「地竜王を、封じる」