第 9 章
守るべきもの
-3-
5/9
『――――っ!』
声にならない声を――悲鳴にも似た――発して、竜王は巨体をうねらせた。
途端、ポンと、まるで手品のように外へ出られた。
「って、どこだ、ここは…?」
寛也は辺りの様子に、大きく安堵の息をついた。
竜体はすっかり解かれ、自分は竜王の気の玉の中に取り込まれてしまっていたが、竜王の意識の中からは出られたようである。
と、自分の腕の中にいた筈の人物が、いないことに気づいた。
「杳?」
目の前に、黄金色の糸のようなものに覆われた塊があった。
そこに、杳の上着の端が見えた。
あの時伸びてきていたのは、この糸のようなものだったのだ。そのまま杳は、これに取り込まれてしまったのだろう。
「おいっ、杳、杳っ」
幾重にも巻き付けられた触手は絹糸のように細くて、鋼鉄よりも頑丈で、寛也の力ではビクともしなかった。
「杳っ、目を覚ませっ」
掻きむしって、拳で叩いて、足で蹴り飛ばす。
しかし、一向に中にいる筈の杳は目覚める様子がなかった。
確か息が止まって入ると言っていなかっただろうか。
「くそっ」
握り締めて力を込めた右手に、赤い炎が灯る。
それを触手に押し付ける。
辛うじて少しだけ焦げるが、すぐに横から伸びてきた別の触手に覆われてしまう。危うく寛也まで取り込まれてしまいそうになり、慌てて飛びすさる。
諦めず、今度はもっと大きな炎の玉を繰り出すが、全て同じ結果だった。
これでは埒があかないと思って、とにかく杳の目を覚ますことだけはしなくてはと思った。
「少しの火傷くらい、我慢しろよ」
呟いて寛也は、杳の衣服が隙間から覗く場所へ向けて炎を押し付けた。
衣服が燃えるが、同時にくぐもった声が聞こえた。
急いで寛也は、気の塊を殴る。
「杳っ、おい、杳っ」
身じろぐのが見えた。が、顔は現れなかった。
「ヒロ…」
こちらの声が聞こえるのか、わずかに寛也を呼ぶ声がした。
途端、その塊が絞り込まれるように縮んだ。と同時に、杳の絞り出すような呻き声と、何かの砕けるような鈍い音が、その塊の中から聞こえた。
塊の中で何があったのか、想像して、ぞっとする。