第 9 章
守るべきもの
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「…何だ、今の」
「さあね。ヒロに分からないもの、オレに分かる訳ないだろ」

 そっけなく返されて、ごもっともと納得する。

「とにかくこんな所、とっとと抜け出して…」

 声をかけようとして、相手の姿が透けていくのに、寛也はギョッとする。

「杳…お前、身体が…」

 注意を促すと、杳は軽く肩を竦める。

「身体の方が持ってないみたいだ」
「身体の方って…?」
「この姿は意識体なんだよ。地竜王の気に巻き込まれて迷い込んだだけ。身体の本体はまだ外にあって、多分、もう息してないんじゃないかなぁ」
「それを先に言えっ」

 呑気に言う杳に、寛也は慌てた。

「お前は何でそう、命を粗末にすんだっ、バカヤロー」

 言って、杳の腕を取る。

 意識体と杳は言ったが、自分もそうなのだろうか。同じ気質のものだからなのか、ちゃんと腕を捕まえることはできた。

「粗末にしてないよ。ただ、そういう状況に陥っただけ…」
「同じだ、馬鹿っ」

 寛也の言葉に、杳がムッとするのが分かった。

「バカにバカって言われる覚えはないよ、バカヒロ」

 何で緊急時に、こんな所でこんなくだらない言い合いをしているんだか。寛也は自分に呆れながらも、杳を引き寄せる。

 触れば、温もりを感じる。

「ちょっと、ヒロッ」

 逃げようとする杳を、無理やり腕の中に取り込んだ。

「ガタガタ言うな。俺だって男なんて真っ平ゴメンなんだからな」

 寛也のその言葉に、抱き締めた腕の中で、杳は思いっきり嫌そうな声と表情と態度を向けてきた。

「ヒロってば、サイテー!」

 ここまで言われて、何をやっているのだと思いながらも、浮かんできた思いはただひとつ。

 ――守りたい

 それだけだった。

 寛也は杳を抱えたまま、自分の気の流れを辿った。


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