第 9 章
守るべきもの
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「まずい」

 地上で見ていた翔がとっさに銀色の竜玉を取り出すのを、潤也はその手首を掴んで引き留める。

「ヒロがいる。何とかするよ」

 言った潤也を、翔は睨み上げる。

「戦はアテにならない。いつも肝心な所でしくじる」

 思わず口調が変わったことにも気づかないらしい。

「仕方ないだろう。末っ子の戦は、まだヒナだからね」

 大人気ないと言外に言われ、翔は腕を降ろす。

「手足をもぎ取られたら、いくら僕でも元に戻すことはできませんからね」

 竜神の末弟を信頼しているのか、翔の声音は低いままで、それでも口調を整えた。


   * * *


 しまったと思った時には、頭上に乗せていた筈の杳の姿は消えていた。

 瞬きひとつする間もなく、金色の触手のように伸びてきた気の波につれ去られてしまった。

 今は竜王の気の中に取り込まれてしまている。

『まずいんじゃない?』

 話しかけてきたのは、竜王からつかず離れず見守っていた石竜だった。風圧に吹き飛ばされる炎竜を何とか引き戻してくれた。

『あの中って、息できるのか?』

 石竜――露の言葉にギョッとする。

 見やる竜王の手に握られた気の玉の中で、杳の姿は見えなかった。

 が、あの中に取り込まれていくのを見た。見えないと言うことは、口も塞がれている可能性が高い。

『水穂、援護射撃してくれ』

 そう言う寛也に、露は心得たように気を膨らませる。

 プスプスと音を立てて空気が色を変える。それが幾つもの塊に凝縮されていった。

 次の瞬間、飛び出していく塊は、雷鳴の間をくぐり抜けて、竜王目指して加速度をつける。

 その後ろを炎竜が駆け出した。

『長くは持たないぞ』

 露の声にうなずく。

 竜王を捕らえるには余りにも小さすぎる重りだが、それでも時間稼ぎにはなる。懐にさえ飛び込めれば、身体の大小を埋めるくらいには抵抗できる。寛也はそう思って全速力を出す。

 その尾に捕まって、一瞬で振り落とされたのはつい先程のことだ。凶暴な尾より、玉を抱える胸元の方が良い。杳もそこにいる。

 手を伸ばして、竜王の胸元に飛び込んだ。

 が、その気の流れに触れた途端、目の前が暗転した。

『結崎っ』

 遠くで名を呼ぶ露の声が聞こえた。

 それを最後に、雷鳴も、風の音も消え失せた。


   * * *



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