第 9 章
守るべきもの
-2-
6/6
やがて竜体を形どった寛也が、二人の前へ臥(が)す。
「でんでん太鼓を持ちたいな」
訳の分からないことを一人ごちて、杳は慣れたもののように、ひょいっと炎竜の頭の上へ乗り上がった。
「じゃあ、頼んだよ」
潤也は炎竜のヒゲをパシンと叩いて、後ずさる。
気圧を上げて、竜身が天へと駆け上がる。
振り落とされないようにとしがみつく杳の姿が、思い出の少女に重なるのを、潤也は軽く頭を振って拭い去った。
つと、気配を感じて振り返ると、そこに、血相を変えて飛んできている少年が一人。
「翔くん、遅いよ」
思った以上に、元の身体に戻るのに時間がかかったこの小さな大将に、嫌みも込めて言った。
「そんなことよりっ」
息せききって駆けてきたため、整わない呼吸のまま、翔は声を文字通り絞り出す。
「今の、杳兄さんでしょ? 何でここにいるんですか?」
「さあ。僕は結界の外に置いて来たし、入り口はしっかり鍵をかけておいたんだけどね」
呑気に返す潤也に、翔は気を膨らませる。
再び竜身になるつもりだと知って、潤也はその腕を掴む。
「君が行っても、地竜王を煽るだけだ。ここにいてもらうよ」
「邪魔をしますか?」
険のある目を向けてくる翔に、潤也は冷静なまま答える。
「少しくらい死んでも、生き返らせることくらいできるだろ?」
「!?」
「冗談だよ」
言って、炎竜の姿を見上げる。
「いいことを教えてあげるよ、天竜王・天人。杳は竜王の宮の巫女の転生者だ」
その言葉に、翔は潤也を見上げる。
以前に、潤也を覚醒させたのは、杳自身だった。その気を鎮めたのも、杳だったのだ。
そんなことができるのは、自分達以外の竜神――華竜のような戦いに属さない竜達。
そして、もう一人。
「今更驚かないでよ。薄々気づいていたんじゃないの?」
言われて、翔は掴まれていた腕を振り払う。
「有り得ないんですよ。人は二度も三度も、生まれ変わったりしないんです。僕達のようには」
だから違うのだ。そう思い込もうとしていた。その方が良いと思っていた。
同じ悲しみを繰り返すくらいなら。
「ま、あの杳の性格じゃ、信じたくない翔くんの気持ちも、分からないでもないけどね」
おどけた口調でそう言ってから、潤也は低く呟く。
「繰り返しているんじゃないんだ、僕達は。やり直すチャンスが与えられているんだよ。きっと」