第 9 章
守るべきもの
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「は?」
杳と寛也が同時に声を発してから、寛也の方が杳を押しのけて、潤也の前へ出る。
今、自分が一生懸命止めていたと言うのに、何を言うのかと。
「冗談だろ? こいつ、殺す気か? 俺なんて一撃だったんだぞ」
「鈍感炎竜は引っ込んでてくれる?」
ジロリと睨む目に、寛也は無条件に後ずさる。
いくら「炎竜」と呼ばれようとも、十余年一緒に暮らしてきた潤也は、やっぱり潤也なのだ。こんな口調も、既に日常に戻ったように思わせる。
「なだめるって…説得?」
眉を顰める杳。
「いや、言葉は多分、通じない」
「だったら、どうやって?」
「彼は今、覚醒したばかりで、前後不覚に陥っているだけなんだ。それを現実に引き戻してやればいいんだよ」
ますます分からないと言う表情を向ける杳に、潤也は笑みを見せる。
「僕が覚醒した時のこと、覚えてる? 福井の山の中での。あれと同じでいいよ」
「…」
眉の根を寄せ、じっと潤也を見やる杳。
「オレ、何かしたっけ?」
はっきり言って身に覚えがなかった。
あの時は確か、薬を飲まされて、足元がふらついていて、そこへ茅晶が出できて、腹立ち紛れに怒鳴り散らして、それから――。
特にこれと言って思い出せなかった。
尚も首を傾げる杳に、潤也はポンと背中を押す。
「いいから。側に行けばできるよ」
潤也の言葉に、しばらく考える風をしてから、杳は短く答えた。
「いいよ、やる」
その言葉に笑みを向けて、潤也は寛也の方を振り返りもせずに言う。
「ヒロはボディガード。あそこまで杳を連れて行くんだ」
命令口調だった。
しかも、杳と話してした時とは天地も差がある刺のある言い様に、寛也はムッとして言い返す。
「何で俺がすんだよ? 知るか。引っ込んでろって言ったの、お前だろーが」
「僕は当分、飛ぶ気になれないんだよ」
色々な意味を込めて返した言葉に、しかし寛也は表面通りに受け取ったらしかった。
「どいつもこいつもワガママだ」
呟いて、それでも右手の平を天へとかざした。
赤い、炎のように赤い色をしたオーラが、寛也の身体から右手を伝って、天へ舞い上がる。
気の膨張とともに、溢れ出た熱風が、葦の原を焦がす。
「ヒロ、熱すぎ」
小さく不平を漏らす杳の声が届いたのか、すぐにそれも鎮まる。
自分がどれだけ説教をしても聞き入れることがない寛也が、杳の不満げな一言をすんなり聞き入れるのだから。しかも本人は無自覚ときている。
潤也には、馬鹿馬鹿しいことこの上なかった。