第 9 章
守るべきもの
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天へ駆け昇って、一瞬たじろぐ。天竜王は、かつて東京でまみえた時よりも凄みを増したような気がする。
それが地竜王の封印が解けたことによって、能力の解放がなされたことに起因するのだとは、すぐに追いついてきた風竜――潤也が教えてくれた。
『とにかく、先に止めるのは天竜王よりも地竜王の方だ』
潤也の意外な言葉に振り返る。
『覚醒したばかりで正気を無くしているのは、彼の方だからね』
成る程、潤也の言う通り、守りの神である筈の地竜王が大地を焦がす程に荒れていた。
自分にも苦い覚えがあった。目覚めたばかりの時は、前後の感覚がなくなっていたのだ。
自分の通う高校を破壊した記憶が蘇る。
そう言えば潤也はいつ覚醒したのだろうか。
雪乃の出現によって竜体に目覚めた自分と同じ校舎にいたにもかかわらず、目覚めることのなかった潤也は。
家に帰ったらゆっくり聞き出してやろうと思い、とにかく今はと、寛也は目の前の獲物を見やる。
『僕が天竜王の前へ出る。その隙にヒロは地竜王のシッポでも捕まえて』
『へ?』
言うが早いか、聞き返そうとする寛也を置いて、風竜が飛び出した。
丁度間合いを取っていた二体の巨竜の間に割り込み、天竜王を制止させた。
寛也は、天竜王が虚を突かれた隙を見やって、攻撃をかけようとする地竜王の背後に回り込んだ。
『シッポって…いいのか?』
呟いて、寛也は金の色を放つ巨竜の尾を掴んで、しがみついた。
『はな…せ…!』
ノイズ混じりのラジオの音声のような呻きが聞こえた。
まだ声をそれとして発することに慣れていない地竜王のものだと気づいた時には、寛也はブンッと言う耳障りな音と共に身体に衝撃を覚えた。
振り払われたのだと気づいた次の瞬間に、寛也は地面にたたきつけられていた。
「いててててて…」
大地を大きくえぐり取って、竜体が地面に転がると、寛也はそのまま人間の姿に戻ってしまった。
肩を擦りむいたと思ったが、意外にも外傷はなく、寛也はポンと軽く立ち上がった。
「ったく、大人げねぇな…」
呟く言葉の意味すらはっきり分からないが、何となく、そんな言葉が出てきた。
「さてと。仕切り直すか」
一人ごち、手の中の竜玉を確認した。その時。
「ヒローッ」
聞き慣れた声がした。