第 9 章
守るべきもの
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「あーあ…」
呆れ顔で杳は天を見上げた。
銀色に鱗をきらめかせる天竜王。
そして、もう一体は翔の竜と良く似ているものの、色合いが多少違って見える。
多分、あれが地竜王だと思った。
紗和の身に纏っていたオーラが思い出される。紗和が覚醒したのだろう。
それをぼんやり見上げていた杳の目に、更に見覚えのある竜体が出現した。これまで何度となく目にしてきた寛也の、炎竜だった。
「ばかヒロ…」
一目で分かった。彼ら二体の竜が竜王と呼ばれる訳が。
身体の大きさが違うのだ。
その差は歴然で、竜王からすれば炎竜はまるで子どものように見える。まったく太刀打ちできない程の大きさに見えた。
それなのに、何故か炎竜から弱さは感じられなかった。見た目の大きさに加わる気の力は、その内より出でる燃え盛る炎のように猛々しく思えた。
竜神四天王随一の力を誇る天竜王の片腕とは、誰から聞かされた話だっただろうか。
身体が小さいのは竜神達の末っ子だから、まだ成長段階で、成竜になれば竜王を凌ぐ程にはなるだろうと誇らしげに語っていたのは、寛也だったのだろうか。
それとも――。
切ないような、懐かしいような思いが駆け巡る。
リーンと、手にしたものが鳴った。それを見やって。
「終わらせよう。あみやも、綺羅も、もうどこにもいないんだから…」
握り締めた銀色の剣の柄。そこに浮かぶ模様は、翔の持つ痩身の剣と同じもの――茅晶の持っていた剣の封印が解かれて、今あるべき姿に戻ったものだった。
かつて、竜王の宮の巫女が手にしていたもの。天竜王が、その少女の為に遣わした剣。
杳はそれを強く握り締めた。