第 9 章
守るべきもの
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「繰り返す、繰り返す、言いやがって。俺はもう戦じゃねぇよっ。お前だって凪じゃねぇっ。兄貴ヅラしてんじゃねぇよっ。兄貴は俺の方だっ!」

 怒鳴って掴んだ潤也の胸倉。

「お前が熱だして寝込んでるのを看病してやったのも、できねぇ逆上がりを最後まで付き合ってやったのも、雷が怖いって泣くから一緒に寝てやったのも、寝小便したのを片付けてやったのも、全部兄貴の俺じゃねぇかっ!」

 眉を顰める潤也に、何の表情の変化もないことを見やって、腹立ち紛れに突き飛ばす。

 そして、見上げる空に浮かぶものを睨み据える。

「どいつもこいつも、済んじまった過去ばっか振り返りやがって。繰り返すんじゃねぇだろっ。俺達はやり直す為に生まれ変わったんじゃねぇのかよっ」

 潤也が気づいて止める間もあらばこそ。寛也はあっと言う間に天へ駆け昇った。

 竜玉をかざすこともなくのその技に、一瞬驚いて、ふと、残った二人を見やる。

 同じように唖然として寛也の背を見送る聖輝と露の二人。

「巻き込まれる前にヒロを止めてくる。君達はその子を頼むよ」

 冷静な表情のままそう言ってから、ふっと苦笑をもらす。

「言って置くけど、ヒロの言っていたおねしょは、僕じゃなくてヒロの方だからね」

 そして、竜玉を手にする。

 白い珠玉から竜気があふれ出し、その身は炎竜を追いかけた。

「…あれ、どう思う?」

 風竜の背を見送ってから、露が呆れた表情で聖輝を振り返る。

「どっちもどっだろう」

 つまらなそうに言って、聖輝は里紗に癒しの術を施しながら続ける。

「お前も行きたいなら行っていいぞ。ここは俺一人で十分だからな」

 そう言いながらも、ある程度回復させたら里紗を結界から外へ放り出して、自分も参戦する気は満々だった。

 それに気づいたのか、露はニッと笑う。

「じゃあ、ちょっくらかき回してくるかな」

 既に天へかざしている手に朱色の玉が握られていた。

「気の荒い奴らだな」

 呟いて、思わず笑いが漏れた。

 不思議なことに、先程までの緊迫感はもう感じられない気がした。


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