第 8 章
竜の宮
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 ゴゴゴと、大地が大きく揺れた。

「な…何?」

 雪乃は辺りを見回す。

「目覚めたか…」

 呟く優の声に、ギョッとする。閉ざされた結界を越えてまで伝わる大地の揺れに、身の危険を感じた。

「冗談でしょ。この結界、持つの?」
「さてな。これは風竜の結界だからな。中で地竜王に風竜が敗れでもしたら、四散して、この辺り一帯、ただじゃ済まないだろうな」

 冷静に言う優。

 実際、地竜王がどれ程の力を持つものなのか。天竜王から推測するに、自分達とは桁違いだろうと言うことまでしか測れなかった。

「三十六計逃げるにしかずか?」

 辰己が呟くのを、優は止めることはなく、結界の入り口だった巨木を見上げる。

「俺はここで待ってるよ」

 仲間の、無事を確認しなければならなかった。逃げ出した自分であるが、それゆえに、待たなければならないと思った。

「あたしは嫌よ」
「勝手にしろ。自分が引き起こしたことから逃げたいならな」

 明らかに雪乃の機嫌が悪くなるのを、その気の動きで気づくが、気にしなかった。巨木に手を突き、次の揺れを待つかのように目を閉じて耳をすました。その優の背を雪乃はじっと睨む。

「どうした?ここにいると巻き添えを食うぞ」

 辰己が声をかける。この悪趣味な男も、同行するつもりはないのか、雪乃は言った人物を睨む。

「分かってるわよ。貴方達なんて好きにすればいいわ」

 言って、くるりと背を向ける。

「断っておくけどね、中へ入ろうと考える貴方達の方が無謀なのよ。死にに行くようなものだわ」
「逃げたかったら黙って逃げろ。誰もお前を責めたりしない。お前を責めるのは、自分自身だけだ」

 背を向けたままそう言う優に、雪乃はまだ何か言いかけるが、やめた。どうせここで倒れても、この連中はすぐに転生するだろうから、放っておこう。それよりも自分の身の方が大事。そう思って。

「じゃあね。また会えると良いわね」

 言って雪乃は気を膨らませた。

 後ろ髪は引かれるのに、天へ駆け昇るのはあっと言う間だった。


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