第 8 章
竜の宮
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「何が…起きてるの?」
一人ごちて、茅晶は目の前の三人のやり取りを見ていた。今し方起きた地震も、木々を揺らせたものの、地殻の変動するようなものではなかった。が、明らかに震源地はあの巨木だろうことは知れた。
と、三人のうち少女一人が後ずさって姿を消すのが見えた。仲間割れでもしたのか。
それよりも中の様子が気になって仕方がなかった。自分は人間でも竜でもない妖の者。あの結界内へは入れないことは分かっているだけに、ここから動けずにいた。
つと、手元にあるものの感触が変化していくのを感じた。何とはなく目を向ける。
「竜剣が…」
手に握っていた竜王の剣が、銀色の光を放っていた。
あの時と同じ感覚がした。
東京の地下道にいた時に感じたもの。リーンと悲しい音を響かせて鳴る剣が、自分の心を揺さぶった。
「あみや…」
知らず、口を突いて出た名に、茅晶自身驚いた時、剣がまるで空気に溶けるようにその姿を消した。
「えっ?」
慌てて捕まえようとした手が、空を掴む。もう、竜剣はそこになかった。
「どうして…」
この剣をあの場所で見つけてからずっと、この手を離れたことはなかったのに。その昔、竜達の戦いの終焉に、地竜王が封じたもののひとつなのだ。今、剣がここから消えたとなれば、封印は解かれ、竜王の元へ戻ったとしか考えられなかった。
「竜王が覚醒する…」
あの戦いを目にしていた。かつての姿の時に。あのおぞましい力が蘇るのか。
茅晶は、拳を握り締めた。
* * *
古い古い記憶が呼び戻す、悲しく切ない気持ち。その思いに立ち止まることは許されないと、自らの心が責める。
このことは、もう、ずっと以前から知っていたような気がする。そう、心の奥底に昔から宿っていた。
少しずつ、少しずつ、勾玉の力を借りて見てきたものは、幻でも何でもなく、自分の中にあったもの。生まれ出るよりも前の記憶だと、ようやく気づいた。
自分が招いた過ちに、今更何ができようか。それでも――。
遠い、遠い葦の原の向こうに舞う竜達の姿を見上げる。その手に、いつの間にか現れた竜剣を握り締めて。