第 8 章
竜の宮
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「自分には関係ねぇとか言って、涼しい顔して見てんじゃねぇよ。こいつ、女の子じゃねぇか」
その寛也の手を掴んで、無造作に引きはがし、冗談のように言う。
「杳から聞いてないの?その子、それくらいの罰が当たっても良いくらいの性格してるんだよ」
「そんなの知るかっ。俺が言ってんのは、お前のことだ」
しっかり両手で掴み上げる胸倉。が、潤也は相変わらずな表情のままだった。それが一層寛也を苛立たせる。こんな奴ではなかったのに。
「いいのかよ、こんなやり方で。こんな弱い人間を使ってまで、しなきゃならねぇことなのか?」
口をつぐむ潤也に、殴る気も失せる寛也。その寛也に、背後から聖輝の声が飛ぶ。
「手を貸せ、結崎」
振り返ると、聖輝が真剣白羽取りよろしく、刀を両手で挟み込んで掴んでいた。里紗は何とかそれを引き抜こうと、身をよじる。
「マジ…かよぉ」
寛也は掴んでいた潤也を振り返り、突き飛ばすようにして放す。相手を睨んでから、寛也は潤也に背を向ける。
ポタリポタリと血が滴っているのは、里紗の手の甲と、聖輝の手のひら。
「一瞬でカタを付けるからな」
里紗の向こう側で、再びタックルをしかけようと構えている露が言った。里紗に触れている間だけ電流が流れるのだとしたら、それしか方法がない。
「こんな時に何なんだけどさ。オレ、サッカー得意なんだ」
「は?」
言うが早いか、露は飛び出していた。里紗に飛びかかるのかと思いきや、床に滑り込んで足払いをかけた。
「タイミングくらい合わせろっ」
慌てて寛也も飛び出す。先程、聖輝が自分にやったと同じように、里紗の手首を手刀で打つ。足元を掬われて倒れかかった里紗は、簡単に刀を手放すと、その場に転がった。
そのまま三人は里紗から飛びのいて、部屋の四隅に散った。刀は聖輝が回収していた。
「よっしゃ」
部屋の真ん中で倒れ込んでいる里紗を見て、寛也が思わず呟くのを、潤也が冷たく返す。
「まだ倒してないよ」
むくりと起き上がる里紗は、無表情なまま、寛也を見やる。
「もう、勘弁してくれよ」
ゆっくり近づいてくる里紗に、寛也は後ろには逃げられず、壁伝いにジリジリと右方向へ移動する。図らずも潤也に近づく格好になった。
「向こうから触られるのは、ナシだよな?」
「有りに決まってるだろ」
寛也の問いかけに、潤也はそっけない。その潤也の腕を掴む寛也。
「じゃあ、仲間のお前だとどうなるんだ?」
言って、ポンと潤也の身体を押した。
「え…?」
不意をつかれて潤也は里紗に近づく。が、寸でのところで避ける。
単に里紗に触れたくないだけなのか、それとも翔が見境ないことを知っているのか。
「ふざけたヤローだ、全く」
寛也は呟いて、その右手に光球を現す。その手の中で膨れ上がる光は、赤い炎のように、燃えるような影を作る。それは潤也に向けられていた。