第 8 章
竜の宮
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「ようこそ、竜の宮へ」

 潤也に促されて入った部屋で、一人の少女が待っていた。

 寛也と同世代らしき彼女は、どこかで見覚えがあった。

 誰だったろうかと考える前に、潤也が教えてくれた。

「二人は東京で会ったよね。新堂紗和くんのお姉さん」
「おーっ」

 ポンと手を叩くのは露。そうそう、一瞬だけ会ったことがあると呟いて、ふと思い至った。

「でも確か、地竜王の姉ちゃんって、さらわれたって杳が言ってなかったっけ?」

 しかし、彼女は特に拘束を受けているでもなく、自由な身のようだった。その紗和の姉――里紗にゆっくり近づく潤也。

「うん、ちょっとね、竜王の術にかってる」

 軽く言う潤也を睨みつけるのは寛也。

「君達の相手は、彼女程度で良いと思ってるんじゃない?」
「んだとぉ?」

 すごむ寛也に、それ以上の怒りの表情を向けるのは潤也の方だった。

「言っただろう、力をつけて来いって。何を聞いてたのさ?」

 言って潤也は、里紗の背中をポンと押す。されるままに里紗は一歩、寛也達に近づく。

「彼女を倒せたら竜王に会えるよ」
「待てよ、ジュン」

 近づこうとして、その鼻先をキラリと光るものが擦り抜けた。見やると里紗の手に握られているのは日本刀だった。それがゆっくりと振り上げられた。

「おい、ジュン」

 振り返ると、潤也は後ずさっていた。

「そんな人間の女の子ひとり、倒すのなんてわけないよね?」
「何言ってんだ。杳じゃなきゃ、誰がどうなってもいいのかよ?」

 言っている間に、一振り、寛也の身の上に刀が振り下ろされるのを危うく避ける。翔の持つ竜剣程の脅威を感じることは一切なかったが、それでも切られると怪我をするに間違いなかった。

「あー、もうっ。水穂、手伝えっ」
「えっ?オレ?」

 傍観者よろしく見ていた露に声をかける。

「この姉ちゃん、取り押さえる」

 言って、寛也は刀を振り上げる間を突いて、里紗に飛びかかった。

「きゃっ」

 操られていても、悲鳴は上げるらしい。

「あ、悪ィ」

 思わず手を放す寛也に、横から露が舌打ちする。

「ばかかっ」

 そのままタックルして、露は里紗ごと床の上へ転がった。


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