第 8 章
竜の宮
-3-
3/8
「ようこそ、竜の宮へ」
潤也に促されて入った部屋で、一人の少女が待っていた。
寛也と同世代らしき彼女は、どこかで見覚えがあった。
誰だったろうかと考える前に、潤也が教えてくれた。
「二人は東京で会ったよね。新堂紗和くんのお姉さん」
「おーっ」
ポンと手を叩くのは露。そうそう、一瞬だけ会ったことがあると呟いて、ふと思い至った。
「でも確か、地竜王の姉ちゃんって、さらわれたって杳が言ってなかったっけ?」
しかし、彼女は特に拘束を受けているでもなく、自由な身のようだった。その紗和の姉――里紗にゆっくり近づく潤也。
「うん、ちょっとね、竜王の術にかってる」
軽く言う潤也を睨みつけるのは寛也。
「君達の相手は、彼女程度で良いと思ってるんじゃない?」
「んだとぉ?」
すごむ寛也に、それ以上の怒りの表情を向けるのは潤也の方だった。
「言っただろう、力をつけて来いって。何を聞いてたのさ?」
言って潤也は、里紗の背中をポンと押す。されるままに里紗は一歩、寛也達に近づく。
「彼女を倒せたら竜王に会えるよ」
「待てよ、ジュン」
近づこうとして、その鼻先をキラリと光るものが擦り抜けた。見やると里紗の手に握られているのは日本刀だった。それがゆっくりと振り上げられた。
「おい、ジュン」
振り返ると、潤也は後ずさっていた。
「そんな人間の女の子ひとり、倒すのなんてわけないよね?」
「何言ってんだ。杳じゃなきゃ、誰がどうなってもいいのかよ?」
言っている間に、一振り、寛也の身の上に刀が振り下ろされるのを危うく避ける。翔の持つ竜剣程の脅威を感じることは一切なかったが、それでも切られると怪我をするに間違いなかった。
「あー、もうっ。水穂、手伝えっ」
「えっ?オレ?」
傍観者よろしく見ていた露に声をかける。
「この姉ちゃん、取り押さえる」
言って、寛也は刀を振り上げる間を突いて、里紗に飛びかかった。
「きゃっ」
操られていても、悲鳴は上げるらしい。
「あ、悪ィ」
思わず手を放す寛也に、横から露が舌打ちする。
「ばかかっ」
そのままタックルして、露は里紗ごと床の上へ転がった。