第 8 章
竜の宮
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「里紗に何をさせる気?」
少し怒りの籠もった表情を向けると、翔は口元だけをほんの僅かに上げて見せた。
「彼らのお出迎えですよ」
紗和の捕らわれているのは、奥の院の更に奥だった。とは言え、特殊な結界を張っているので、そこにそれがあることは、殆ど気づかれることがない。その中で、翔は水晶球に映し出される部屋を見ていた。紗和と一緒に。
「僕の代わりに、彼らの相手をしてもらいます」
「相手って…」
額面どおり、客人をもてなす主人の役目をさせるとは、とても思えなかった。
うさん腐そうに自分を見やる紗和に気づいて、翔はまた少しだけ口元を緩める。
「ホラ、見えませんか?お姉さんの額に薄く張り付いているものがあるでしょ?」
翔は水晶球の中に映る里紗を指さす。そこに僅かに銀色に光を弾くものが、前髪に見え隠れしていた。
「あの鱗を仲介に、僕の力を伝えます。お姉さんにはその力であの三人と戦ってもらうんです」
「な…っ?」
思わず立ち上がり、紗和は翔に近づこうとして、見えない壁に阻まれる。その紗和の様子に、翔は小さく息を吐き、もう何度も口にした言葉を繰り返す。
「貴方が本来の力に目覚めれば、そんな結界もどきを破るのは造作もないことなんですよ」
「だから僕はそんなものじゃないって、何度も言ってるだろっ」
見えない壁を叩いて、紗和は低く怒鳴るが、翔はその紗和を座したまま睨み上げる。
「今度こそ本気にならないと、お姉さん、死にますよ」
「え…?」
「あんな小さな片鱗とは言っても、僕の力を受ける訳ですから、普通の人間でどこまで持つものか…」
そう言う翔の感情は読めなかった。
「ばかな、やめてくれよ」
「だったらさっさと封印を解いて下さい。こんな中途半端な真似をしないで、本気になって僕と戦えばいいんです」
「何度言ったら…」
「何度でも言います。僕はあの時、封じて欲しかったんじゃない。何もかも終わらせたかっただけなんだ」
身動きしない翔の正座した膝の上に置かれた手が、堅く握り締められている。その手の甲が、白くなる程に。
「翔くん…」
声をかけようとして、翔がそれを遮った。
「さあ、始まります。その気がないなら、そこで黙って見ていて下さい」
語尾がきつくなっていった。
* * *