第 8 章
竜の宮
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「中に入る方法、何かないの?そもそも結界って何だよ?バリアーとか?」

 不思議そうに首を傾げて、杳は巨木の周りをぐるりと回る。

「異次元空間への入り口とかなのかな?竜の宮って、どこかに掘っ建て小屋でも作ってるのかと思ってたけど」
「方法なんてないわ。ここが唯一の入り口よ。もう入り口じゃないけど」

 腕組みして、軽んじたような目付きを杳に向ける雪乃。

「どっちにしても、もう中へは入れないわ。完全に閉じてしまってる」

 竜王はこの中で何をしようと言うのだろうか。多分、中には炎竜達も入って入る筈である。四天王と、竜王。他をすべて締め出して。

「竜王は言ったんだろ。あの時の戦いを繰り返すと。だったらこの中で行われることは…」

 弱い者を締め出して結界を張り、中で行われるのは激しい戦いだと予想がつく。竜王は自分達を巻き込ままいとしていると言うのか。それは、何故か。そもそも結界内で戦わなければならない理由なんてない。人界征服と言うのなら、被害を考える必要などないだろうに。

「翔くん、一体何をやりたいの…?」

 呟いて見上げる巨木。何百年のものか。

 杳はその幹に手を伸ばして、触れようとした。その瞬間――。

 光が溢れた。

「えっ?」

 ふわりと、身体が浮くような感じがした。途端、目の前が真っ白になった。

 何か重い空気の中を通り抜けたような気がして足をばたつかせて、杳は何かにつまずいて転んだ。

「いったーっ」

 何なんだと思って顔を上げると、目の前に広がっていたのは、遠く続く葦の原だった。

 飛鳥の山の中の景色はどこにもなかった。

「……え…ええーっ!?」

 何が何だか分からないまま、呆然として立ち上がった。


   * * *


 一方、木の外。

 巨木に手をついたかと思った途端、消え失せた杳の姿に三人は驚く。

「えっ、ちょっとっ」
「嘘だろ」

 それはまるで、結界内に入り込んでしまったようで、慌てて優が巨木に手を伸ばす。が、手に触れるのは固い木の幹の感触だけで、依然として自分は拒絶されたままだった。

 雪乃も同様に試してみたが、結果は同じだった。

「どう言うこと?」
「信じられない…俺達にできないことを、あいつ…」
「何者だ?」

 ふと呟く辰己の言葉に、二人は振り向く。

「人間の匂いしかしなかったが…」
「匂いって…」

 雪乃は嫌そうに眉を寄せる。そう言えば、こいつの好みっぽいのではないかと考えて、ますます眉をしかめる。

「人間…だと?」

 優はもう一度巨木を振り返る。

 竜の結界を解ける者など有り得ない。あるとしたら、『封じる者』だけ。考えて、それこそ有り得ないと否定した。





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