第 8 章
竜の宮
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「うそ…」
周囲のものと比べて一際巨大な老杉が立っていた。雪乃はその木の幹に手を突いて呟く。
「入れない…」
「そんな訳ないだろ」
言って辰己が雪乃を押しのけたが、手に触れるのは普通の木の幹だった。
ここが結界の入り口だった。潤也の作った、竜の宮へ続く入り口だったのだ。
「相当な念の入れようだな。同族の俺達まで入れないようにしてやがる」
優が冷静な口調で言った。
普通、結界とは異種族を遠ざける為のものだった。同族には門戸を開いている筈のものだ。それなのに、何者も入れないように完全に閉ざしてしまっているのだった。
「ちょっと、私まで追い出すことなんてないでしょ?」
「そうだよな。首謀者を追放だなんて、あんまりだよな」
その優の物言いに、雪乃は思わず頬を張る。
「いてー」
「敵前逃亡した臆病者は黙ってらっしゃい」
「お前だって、都合が悪けりゃ逃げ出すじゃないか」
「あたしはねっ」
「喧嘩している場合か」
辰己が呆れて口を挟むのに、優は気を落ち着ける。
「ふんっ」
雪乃はそっぽを向いて返した。
「どっちにしても、これじゃあ我々に手出しはできないってことだ」
辰己は木の幹に、思いっきり手のひらをたたきつける。
「自分勝手な奴だ」
と、その時、後方で物音が聞こえた。
「誰だっ?」
誰何(すいか)の声に、木の陰から姿を見せたのは杳だった。
「あーあ。見つかっちゃったか」
わざとらしい口調で呟いた。
「お前…」
「そこが竜の宮の入り口って訳?ふーん」
敵の竜達三人を前にして平気な顔をして近づいてくる杳に、三人そろって唖然とする。
「中、入れないの?」
「あなた、どうやって…」
雪乃の問いに、杳は肩をすぼめて見せる。
「どうもこうも、散々だよ。ヒロ達には置いていかれるし。しかも、道端に放置されてたんだ。サイテー」
愚痴る杳に同情の余地はない。
「ふん、残念だな。お前も俺達もここまでだ。後は中にいる奴らだけで終始するって訳だ」
「簡単に諦めるんだ?」
「なに?」