第 8 章
竜の宮
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 潤也に術をかけられ、眠らされていたことを。

 寛也達はどうしたのか、辺りを見回して、当然のように置いて行かれたことを知る。

「くっそー、あいつらー」

 ポンと立ち上がり様に、クラリと目眩がした。さすがにまだ術が残っているらしかった。

 近くの幹に手をついて、忌ま忌ましそうに呟く。

「潤也のヤツ、覚えてろ…」
「何があったか知らないけど、要するにみんなに置いて行かれた訳ね?」
「要しなくても、そうだよ」

 こんな所まで来て、土壇場で置いていかれるとは思ってなかったのだ。悔しいったらなかった。

「多分、竜の宮はすぐこの近くの筈だ。絶対に見つけてやる」
「…って、ふらついてるわよ、足元」
「平気だ。こんな所でボヤボヤしてられないだろ」

 言って歩きだす。気の逸る杳を、茅晶はじっと見やった。

「何?」
「今更言うのも何だけど、杳くんって、竜達に大事にされてるって感じ」
「はあ??」
「竜王だけじゃなくて、風竜や、多分…」
「やめろよ、気持ち悪いな」
「あら、そんな事言って。まんざらでもないんじゃない?」
「それ以上言ってると、殴るぞ」

 杳の言葉は脅しではなく、本気である。が、茅晶は冗談交じりのように返す。

「怖いわね。女の子相手に暴力?」
「何が女の子だ」

 見た目はれっきとした女子高生である。が、その実は妖の力を持つ鬼の子だった。力比べをすれば、杳の方があっさり負けるだろう。

 茅晶はそれが分かっていたので、ふふと笑ってやり過ごした。

「どちらにしてもこの近くに竜の宮はあるみたいだし。あんた、場所、知ってる?」
「そんなこと、知る訳ないでしょ」
「聖輝はこの辺りは風竜の宮があったって言ってたけど。知らないの?」
「あのねぇ」

 杳からすれば、古い時代の者ならば知っているだろうと単純に考えたのだった。が、時代が古過ぎる。

「私は吉備の里にいたの。現代じゃあるまいし、そうそう遠出の旅なんてできないわよ」
「ふーん」

 二人の歩む先は、自然と山の奥へ。ただ歩くだけでは宮の入り口は見つけられないだろうが、他に手立てがある訳でもなかった。

 そして、その気配に先に気づいたのは茅晶だった。

 はっとして足を止めるのを、何事かと杳が振り返る。その視線の先に人影が見えた。途端に、茅晶が気配を殺して身を隠した。

 その先にいたのは、三人の竜達だった。


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