第 8 章
竜の宮
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「どう利用する気だ?竜王をそそのかして人界を征服することが利用することか?」
「悪いっ?」

 睨む雪乃に、優はやれやれとため息をつく。

「お前、アイツの側にいて気づかないのか?アイツは人界征服なんて望んじゃいない。望んでいるのは――」

 戦う度に強くなっていく炎竜を始めとした四天王達。そして自分と同じく竜王の名をいただく地竜王に目覚めろと、待つ。その先にあるものは、仲間の全部を敵に回して戦った、あの昔日の戦に他ならない。

「敵を強くして何の得がある?あるのは自分の敗北だ」
「まさか。だって風竜を味方につけたのよ」
「何故味方についたのか、お前ら、その理由、知ってるのか?」
「知らないわ。私には関係ないもの」

 雪乃にとって潤也は、どこかいけ好かない奴だし、好きになれないタイプだった。

「竜王は、多分…」

 伏せ目がちになる優。

「何よ、はっきり言いなさいよ」
「俺達には何の力もない。ましてや竜王を止める力なんて。奴が望んでいることが俺の考える通りだとしても、何もしてやることはできないんだ。だけど」

 心を癒すことくらいはできるだろう。傷ついたままの、その心を。

「もう一度、竜の宮へ戻る」
「はぁ?」

 素っ頓狂な声をあげたのは雪乃。自分は、戦いが始まるからと逃げて来たようなものだったのに。

「俺達にだってできることがあるだろうから」
「ちょっと。今帰っても炎竜達が来ていて、下手をすると…」
「巻き込まれる?だから、追い出された?」
「丁度良かったからよ」
「体よく追い出されたんだ。お前らに危害が加わらないように」
「まさかっ」

 翔が自分達に対して、そんなことを考えているなんて信じられないと言う顔で、雪乃は吐き出すように言う。

「本当かどうかは、戻ってみると分かる。行こうぜ」

 優は竜玉を手のひらに取り出す。あわてて声をかける辰己。

「お、おい、僕は?」

 いくら気取ってみても薄汚れた衣服や顔はどうしようもなかった。優はそんな辰己に無表情のまま聞いてやる。

「温泉まで送って行こうか?」

 一応、親切だった。


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