第 8 章
竜の宮
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「…何しに来たのよ、この裏切り者」
「ひどい言われようだな」
辰己は軽く服の埃を払って、立ち上がる。
「何の用だ?お前は戦いを放棄したと聞いたが」
「放棄はしたけどな。ちょっとお前らが不憫になって戻って来ただけだ」
「どういうことだ?」
「耳を貸さない方がいいわよ。どうせ敵に回ったんだから」
雪乃は一定の距離を保ったまま辰己に言う。余程、匂いに敏感になっているのだろう、それ以上近づかなかった。
「俺はお前らの敵になった覚えはない。と言っても、今更だがな」
「嘘おっしゃい。正しい道がどうとか言って、結局貴方は人間の味方。こちらにつく筈もなかったものね。それは貴方の考え方でいいと思うけど、私達にまで自分の考えを押し付けないで欲しいわ」
「押し付けているつもりはない。今の俺にとってはお前らなんて赤の他人、何をどうしようが関係ないからな」
「だったら帰ってよ」
睨んでは突っ掛かってくる雪乃に閉口しながら、優は話を切り替える。
「お前、何で俺達を集めた?それが知りたかった」
「え…」
一瞬詰まって、雪乃は返す。
「そんなの決まってるじゃない。人間界の征服よ」
「征服してどうする?人を従わせることはできても、心までは手に入らないぞ」
「!?」
顔色が変わった。それを認めて。
「図星か」
雪乃はあわてて顔を背ける。
「何のことだ?」
「別に。切っ掛けなんて些細なものだから。いいぜ、あんたが呼びかけなくても、多分、俺だけはこの現世でも竜に目覚めていた筈だからな」
言って優は、軽く飛んで石の足場を渡り、二人の前へ立つ。
「目覚めが自分一人なら自力で何とかしようかと思っていたところだが、竜王の目覚めがあったからな。俺はヤツに付くことにしただけだ。あんたは――」
優は辰己を見る。
「どうせ強い方へ巻かれただけだろう?昔から計算高かったし」
「違うな」
きっぱり返す。
「僕が竜王についたのは、好みだったからだ」
「ああ?」
雪乃が心底嫌そうな声をあげる。まさかと思っていたのだ。
「揃った現世でのメンツを見てな、一番好みだった」
一歩引く雪乃。そんな二人に、大して興味もない様子で優は言う。
「だけど竜王は違うぜ。俺達の事なんて捨てゴマにすら思っていない」
「当たり前でしょっ。力の差が有り過ぎだもの。だから私は利用するの」