第 8 章
竜の宮
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「杳っ」

 寛也に駆け寄ろうとする杳の腕を素早く捕まえる潤也。

「放せよっ」

 振り払おうとするが、できなかった。

「せっかく置いてきたのに、こんな所までのこのこついてきて。仕方ないな、君は」

 潤也の指先が杳の額に触れたと思った瞬間、一瞬で杳は意識を失った。それを軽く抱きとめ、草の上に横たえさせる。

「悪いけど、君には少しここで休んでいてもらうよ」

 身構えている三人に、にっこり笑って。

「異論はないよね?」

 返答はなかった。

「この辺りはまだ夜になると冷えるからね。日暮れまでには目を覚ますようにしておくよ。いいだろ?」

 言って、杳の横たわる周囲に石を置き、印を結ぶ。念を入れて行うその様子を、三人は黙って見ていた。

「さて、そろそろ行くかい?案内するよ」
「案内するって…こいつ、ここに置いて行くのか?」
「大丈夫だよ。変なモノに襲われないようにしたから」

 しれっとして言う潤也をいぶかしむ寛也。

「何が目的だ?」
「目的?言ったじゃない。もう一度あの戦いを繰り返すのだと。あの、最後の戦いをね」
「それは竜王と俺達との戦いか?地竜王に敗れたって聞いたが、今度は勝ちたいってことか?お前を仲間に引き入れて」
「そう思う?」
「他に何か企んでいるのか?」
「それは本人に聞いてみてよ」

 言って、くるりと背を向ける。平気で『敵』に背を向けるその態度に鼻白む。そんな不穏な空気を感じて、振り返る潤也。

「ついて来る気はない?僕が信用ならないか…」

 そう言う潤也の表情は読めない。本当に、寛也の知る弟の潤也からは、遠く掛け離れてしまったかのようにしか思えなかった。

「少なくとも、こいつを殺したくはないみたいだな」

 言われて潤也は、杳を心配そうに見下ろしている寛也に目を向ける。

「ここで戦うと無事じゃいられないよね?」
「人界征服なんて言ってる割りには、人一人殺さないってな」
「良く分かってるじゃない。テストのヤマは当てたことがないのにね」
「お前、茶化してる場合かよっ」
「とにかく付いておいで。君達を招待するよ、竜の宮へ」

 言って潤也は歩き始める。その後を、訝しみながらも三人は追った。


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