第 8 章
竜の宮
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奈良、飛鳥の里――。
バス停を降りて随分歩いて、一行は山中深く入り込んでしまった。
「ねーえー、まーだー?」
だれた声を出して、誰ともなく杳が聞く。疲れてきた訳ではないが、飽きてきた様子だった。
「飛鳥の里って言ったんだろ?里って、山の中のことじゃないじゃん」
「いいんだよ、こっちで」
歩みの遅くなった杳を振り返って、寛也が腰に手を当てる。また我がままが始まるのかと、警戒気味に。
その寛也の言葉に露が続ける。
「竜の里の意味だからさ。この辺りは…」
「風竜の守護領域だったな」
最後の聖輝の言葉に、杳はちらりと寛也を見やる。
「まったく、あいつはどこまで俺に楯突きゃ気が済むんだ」
「”俺達”に、だろ?」
くすくす笑って、杳は寛也の横を追い抜く。昨夜のことでどこか弱みを握られてしまったような錯覚に陥り、寛也は聞かれないように舌打ちした。
「でも何でこんな山の中に宮なんて作ったの…って、竜になれば行き来も簡単だったっけ?いいなぁ、みんな」
「そんないいモンじゃない」
羨ましそうに言う杳に、聞こえないように呟く。その寛也の呟きを聞いた聖輝は知らん顔をする。
「ま、いいか。天気は良いし、空気もいいし」
杳は大きく伸びをして、先程までしんがりを歩いていたのに、全員を追い越し、先頭を元気良く歩く。
その目の前にいきなりひとつの影が現れた。
「相変わらずスタミナだけは人一倍だね」
「潤也…?」
突然の潤也の出現に驚いて後ずさり、杳は尻餅をついた。
寛也がとっさに駆け出し、その前に立つ。庇うかのようなその態度に、潤也は一瞬複雑な色を浮かべるが、すぐに表情をかき消す。
「ここまで来たぜ、ジュン。案内してもらおうか」
機嫌の悪い表情を向けて言う寛也に、潤也は呆れたように返す。
「僕の言ったこと、聞いてなかったみたいだね。鍛え直しておいでって、言っただろう?」
前回別れた時と比べて、その力は殆ど成長していない。そんな寛也の様子は、潤也から見れば一目瞭然だった。
「うっせー。どう出ようが俺達の勝手だろ」
「それだから一番にやられるんだよ」
ため息をついてしまう。
「この中じゃ、どう見ても炎竜が主戦力の筈じゃない?それなのに、また怠けて」
「お前なぁ」
からかっているのが丸分かりの潤也の態度に、寛也はその胸倉を掴む。
「ケンカならお前くらい…」
「相手にならないよ」
眉の根を僅かに寄せる。それだけで寛也は簡単に吹き飛ばされた。後方にいた杳を避けるようにして、その後ろにあった木へ、背中から体当たりする。
「ヒロッ」