第 7 章
勾玉の結ぶ記憶
-3-

3/4


「みんな、こっちへ向かっているようだよ」

 襖を開けて入ってきたのは潤也だった。それをちらりと見やって、小さく答えたのは翔。

「そうですか…」

 余り親しく会話を交わすこともなく、ただ、静かにしているだけの二人に、雪乃はうさん臭そうな目を向ける。

 翔も良く理解できないが、潤也も何を考えているのか読めなかった。この人物は本当にこちらの仲間に加わったのだろうか。いや、それよりも今生では寛也とは兄弟の筈だった。てっきり敵側につくものと考えられたものを、何故なのだろうか。

 マジマジ見ていたら、雪乃の視線に気づいて潤也が振り返った。

「何か?」
「別に」

 答えると、クスリと笑われた。気に入らない奴だと感じた。

「あ、そうだ。ちょっと頼まれてくれますか?」

 ふと、思い出したように翔が声をかけてきた。

「人形峠に残してきた闇竜、をそろそろ助けに行ってください」
「は?何でよ?自力でそのうち帰ってくるわよ」
「でももう二晩は経っているからね。多分、飲まず食わずで弱っていると思うよ」

 横から穏やかにほほ笑みながら言う潤也も、腹立たしかった。

「術はそろそろ解ける頃だけど、自力で帰ってくる余力はないんじゃないかな」
「それを私に迎えに行けと?」
「やってくれますよね」

 翔の言葉は丁寧語を使ってはいるものの、明らかに命令のそれだった。ムッとして出た言葉は嫌み。

「闇竜なんてどうなろうと困らないんじゃないの、竜王」
「まあ、そうですが」

 はっきりと返す翔の言葉に、眉の根を寄せる雪乃。

「このまま野垂れ死にされても後味が悪いじゃないですか。一応、仲間なわけですし」
「一応、ね」
「行ってくれますよね」
「命令ならね」

 そう言って、雪乃は二人に背を向ける。

 ここにいてこの連中と顔を突き合わせているよりも、外に出た方が気分はマシだろうと思った。

「くれぐれも気をつけて」
「ありがとう」

 翔の心にもない言葉に、ありがたく思っていない返事で答える。

 そのまま雪乃は部屋を出た。


   * * *



次ページ
前ページ
目次