第 7 章
勾玉の結ぶ記憶
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――京都駅。
平日の朝は通勤客でごった返していた。奈良へはここから近鉄線を使うと便利だった。
「マジで列車に乗って行く気?」
てっきりまた、竜体になって飛んで行くとばかり杳は思っていたのだろう。まっすぐ向かった京都駅で、杳は意外そうに寛也達を見やってきた。
「なるべく無駄な体力は使わないでおこうと思ってさ」
笑顔で答えるのは露。その彼に杳は声を低くして返す。
「で、お金を使うわけか」
「いいじゃん。お前、観光したがってたし」
「あんなの冗談に決まってるだろ」
「なっ!?」
さらりと返す杳の言葉に、露は絶句する。
「それより竜って、竜体になる方が安定してて楽なのかと思ってたけど」
「そんな訳ないだろ。あんなばかでかい格好、今の日本社会じゃ邪魔なことこの上ないからなぁ」
「ふーん」
そんなものかと、納得したような、しないような表情の杳だった。
その肩をポンと叩いて、寛也が声をかける。
「と言う訳だ。切符は自分で買えよ」
そのまま券売機へ向かう寛也の背に、驚いたように聞き返す。
「連れてってくれるの?」
「その代わり命令厳守だ」
きっぱり返す寛也に追いついて、杳は何度もうなずく。
「守る守る、絶対っ」
嘘だろうなと、二人の背中を見ながら、聖輝と露が異口同音で呟いた。
今朝、なかなか起きない杳に、このまま置いていくのが好都合と、寛也はこっそり脱出準備をしていた。その目に勾玉が写った。
昨日の昼間、自分に昔を思い起こさせたのは、果たしてこの玉だったのだろうか。忘れていた悲しい思い出を甦らせた不可思議な力――父竜を封印しているが、元々はお守りとして持たれていたもの。
遠い、遠い、母の願の込められた玉。
もしかしたら――。
竜王にも何か与えられるものがあるのではないだろうか。自分と同じように、大切だったものを思い起こさせることができるのではないだろうか。
この勾玉と、杳の存在が竜王の気を静めることができるかもしれない。そう思った。
危険なことは十分分かっていた。だから、全力で守ろうと決めた。
この存在を。
戦いなんて――潤也と戦うなんて、もうしたくなかった。
* * *