第 7 章
勾玉の結ぶ記憶
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「俺は…俺は…」
握り締めた手のひらに、爪が食い込むのさえ分からなかった。
胸の奥から込み上げるのは、重くて辛すぎた過去。傷つけてしまった子への罪の意識。
と、ふわりと暖かいものが、身を包み込むのを感じた。
「な…?」
柔らかく抱き締めてきたのは、杳の腕だった。
「大丈夫だよ。ヒロの気持ちは、きっと伝わっているから」
恐る恐る顔を上げると、薄明かりに杳の深い色をした瞳があった。思い出の中のあの少女のものと重なって見えた。
「その子はヒロの事、大好きだったんだよ。だからヒロはヒロでいたらいいと思う」
わずかに笑みを浮かべるのが、ひどく奇麗に見えた。
「…ごめん…」
寛也の口から自然にこぼれた言葉に、杳は複雑な色を見せてから、少し不服そうに笑む。
「オレはその子じゃないよ、ばかヒロ」
一瞬絶句して、それでも、何か支えていたものがスッと取れた気がした。
「いいのかな、俺は、もう…」
「うん」
杳がはっきりとした口調で返してきた。安心する気持ちがあった。
その子の悲しい心だけは、癒されることはないのだろう。永遠に。それでも杳の言葉が本当のことのように思えた。
見返して繰る瞳が、似ているように――同じものであるかのように、思えてならなかった。
柔らかく抱き締めてきて、背をさする手が、ひどく優しく感じた。
またあふれ出てくる思いに、寛也は杳の腕の中に顔をうずめた。
* * *
「戦兄さま、戦兄さまっ」
髪に瑠璃色の髪飾りがあった。長い髪と白い顔によく似合っていた。その彼女は、戦の姿を認めると急いで駆けよってきた。
「あのね、戦兄さま、好きな人、いるの?」
聞かれて一瞬、返答に困る。どこでそんな知恵を得たものか、考えられる兄竜達の顔を、順に頭の中で描いた。
わずかに頬を朱に染めて、少女は少しだけ大人びて見えた。
「いなかったらね、綺羅がね」
言いながら、次第に朱の色が濃くなって、慌てて顔を背けた。
「何だよ?」
「いいの。もう、いいの。戦兄さまも他の兄さま達も、みんな大好きだから。だから、いいの」
いつになく語尾を強く、そう言い切った。
些細なやり取り。それすら忘れていた。
悲しみから逃げようとするばかりに、その思いにすら蓋をしてしまっていたのかも知れなかった。
月明かりに溶け入りそうな少女の儚い笑顔が、浮かんで消えた。