第 7 章
勾玉の結ぶ記憶
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ぽつり、ぽつり、寛也はとぎれとぎれに話を始めた。それは遠い遠い昔話だった。
「俺達11体の竜には末にもうひとり、人間の子がいたんだ」
はるかなる神話の時代よりも、更に古い時代。竜と人とが共に生きていた時代のそのまた昔、自分達はこの地上で生まれた。巨竜を父に持ち、母は人間だった。竜と人の子である自分達は、天竜王を総領に11体いた。それが現在の竜達だった。
その中で炎竜は最も末の竜だった。そして炎竜の次に母の産み落としたのは、竜でない人の子だった。
「父竜は母の裏切りだと言って母を殺した。俺達は生まれた子を、父竜の目の届かない所にかくまって育てることにした」
何も知らずに、自分達竜とだけしか顔を会わせることのない生活だったが、その子は自分の存在の危うさを知っていた。
自分の存在こそが火種であったと。
「それでも俺達はその子を守りたかった。その子にとって、俺達だけが頼るすべてだったから。だけど、守りきれるものじゃなくて…」
その子の存在はやがて父竜の知る所となり、当然、かくまっていた自分達にも厄災の及ぶこととなった。
巨大な竜の前に逃げ出すしか術のなかった時、その子が勾玉を使って父竜を封印した。その子の為にと、たったひとつだけ母が遺した勾玉を使って。
その場所が天橋立だった。あの橋自体が父竜ではないが、天橋立になぞらえることで封じたのだった。
その後、父竜の復活を恐れ、勾玉は5つに分かたれ、それぞれ別々の場所で守られることとなった。そのうちの一つが、多分、杳の持つ勾玉なのだろう。
そう言う寛也の言葉を、杳は茶化すでもなく黙って聞いていた。
「その子は、それから時を経ないうちに死んだ」
抑揚のない声でそう言い、寛也は頭を垂れた。
「いつも泣いていたんだ、あの子は。誰にも慰めることができなくて、俺は…」
はにかんだような笑顔がちらつく。長き時が流れたというのに、よみがえって来た記憶は鮮明過ぎた。
一度きり見せた笑顔は、しかし二度とは見ることはなかった。
彼女を守るために戦いに出た合間、疲れた状態で出た愚痴を聞かれたしまった。
「嘘だって言いたかった。本当はとても大切で…守りたかった」
好きだと気づいたのは、それから随分後のことだった。
繰り返し繰り返し襲われる後悔に、追い詰められるようだった。いっそ忘れてしまえたら楽になれるものをと、何度も考えた。
しかし、そう思うとともにに、その存在を忘れたくなかった。
竜王の乱心の時までの永き時代を、そうして生きた。
もう決して届かない思いと、伝わらない気持ちを抱えて。