第 7 章
勾玉の結ぶ記憶
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「…何か見たの?」

 何も言わずにそれを見ていると、杳が寛也の心を見透かすように聞いてきた。

 ギョッとして見返すと、杳はようやくにシーツの中から這い出ると、眩しくない程度に、サイドテーブルのスタンドに、柔らかな光を灯した。

 その光の中で、杳が寛也を真剣な目で見ていた。

「これ、時々、幻を見せるみたいなんだ」
「幻?」

 いや、幻などではない。寛也が見たものは、確かに自分の過去の記憶だった。ずっと閉ざされたままだった竜の記憶に、他ならなかった。

「これは竜の勾玉なんだって。葵の本家に伝わるものなんだけど、もしかしたらヒロにも、何か影響を与えたのかもしれない」

 うつむき気味にそう言う杳は、照明の影響か、どこか悲しそうな表情を浮かべているように見えた。

「もう一度貸してくれねぇか?」

 言うと、少しだけ考えるふうを見せた後、差し出した寛也の手のひらにポトンとそれを乗せた。

 もう一度見れるものと、どこかで期待していた。

 あの、泣き顔ではない、笑顔が見られると。

 しかし、何も起きることはなく、勾玉は寛也の手の中で、スタンドの光をやんわりとはね返すだけだった。

 それなのに、胸が熱くなった。

 見えることはなかったが、あの光景が思い起こされた。

「ヒロ…?」
「…くっ…」

 手の中のものを握り締めて、うつむいた。

 苦しいのはこのためだった。思い出したくなかったのだと、その時、初めて気づいた。

 他の者よりも、ずっと、自分が昔のことを覚えていない理由を。

 忘れたかったのだ。このことを。あの悲しい目を。自分を信じていた者を傷つけてしまった後悔を。

 うつむいて、身体が震えてきた。

 と、寛也の手に触れてくる手があった。寛也の握った手の中から、そっと勾玉を取り返す。

「竜であるヒロが持つものじゃないんだよ、これは」
「杳…」

 元のポケットへしまおうとする杳の手首を掴む。

「なに?」

 寛也を見返してくる目が、深い色を宿していた。


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