第 7 章
勾玉の結ぶ記憶
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杳は相変わらず、まだテレビを見ていた。
「カラスの行水」
あっという間にバスルームから出て来た寛也に向かって、ボソリと呟く。
「シャワーを浴びたんだ。行水じゃねぇよ」
言ってベッドの上に座す。その寛也をじろじろ見やってくる杳。
「お湯につかった方が、疲れが取れるのに」
「俺の勝手だろっ」
言ってしまってから、素直じゃない自分に後悔する。
何故だか、昼間から意固地になっているような気がした。しかし杳は気にした様子も見せずに、寛也がベッドの上に横になると、パチンとテレビの電源を切った。
「つまんない。もう寝る」
言うが早いか、パチパチとダウンライトやらサイドテーブルの電源やら、次々に消していった。が、最後にふと手を止めて聞いてきた。
「ヒロ、まだ起きてる?」
「いや…」
「あ、そう」
言って、最後のフットライトを消した。
真っ暗になった部屋の中。
シャワーだけとは言え、風呂から上がったばかりの身体はまだ熱く、身体自体が興奮しているような気がした。
いや、興奮しているのは気持ちの方だった。落ち着かなかったのだ。
潤也のことは信じようと決めた。その気持ちに揺るぎはなかった。あの鬼子に言ったように。
心をうごめかせるのは、もっと違うことだった。
あの天橋立で思い出されたあの子――。
あの場所が見せたものだったのか、それともあの石が――あの石は一体何だと言うのだろうか。
「杳」
小さい声で呼んでみる。壁に身体を向けて、寛也に背を向けていた杳は、その姿勢のまま返事をする。
「何?」
その声を確認してから、寛也は上体を起こした。
「昼間のあれ、お前の持っていた石ころなんだけど」
ごそごそと寝返りをうって、杳は寛也の方を向く。
「勾玉のこと?」
「勾玉?」
シーツから出るでなく腕だけ伸ばして、脱いだ服のポケットから取り出すもの。それは夜目に慣れた目に、ぼんやりと浮かんで見えた。
杳の手のひらで、わずかに光を放つ。