第 7 章
勾玉の結ぶ記憶
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「返せよっ」
ふいに、手の中の物を奪い取られ、寛也は我に返る。見ると杳がムッとした顔で睨んでいた。
これが現実だと言うのなら、今見たものが夢であるかのように一瞬、思われた。
「昼間から寝ぼけてんじゃないよ」
「寝ぼける…?」
頭の中がぼんやりしているように思われた。しかし、確かな記憶だった。
これは、自分の中に眠っていた過去の記憶そのものだった。ただ、思い出しただけだった。ぽっかりと、その部分だけが鮮明によみがえってきたのだった。
神話の時代にも近い、随分昔のことだった。しかし確かに思い出せる。あの日のあの少女の姿を。深い色をした悲しそうな瞳が自分を見上げていた。
――嫌いにならないで。
違うのだと、もう届かないその子に言ってやりたかった。嫌ってなどいない。大切にしたかったのに。ずっと、許しをこいたかった。
皮肉にも、あの時代のまま、この地はここにあった。
物思いにふけりかける寛也は、しかし、いきなり頭をはたかれる。
「いてっ」
見ると杳。
「観光名所を破壊しておいて、現実逃避するなっ」
「お前なぁ」
大概にしろと、その杳を取っ捕まえようとして、ひょいっと逃げられた。
「この騒ぎで駅とか交通が遮断されてるんだけど、どこかでゆっくり宿でも取らない?」
「えっ?」
突然の意外な言葉に、不審に思って杳の顔を見ると、寛也の顔色を伺っているのが分かった。彼なりに気遣っているのだと、何となく分かった。
「少し場所を変えた方がいいかも。京都市内の旅館で、京料理でもいいんだけど、オレは」
「はぁ?」
前言撤回の寛也だった。こいつは、人に気を使う奴ではないと思った。
* * *