第 7 章
勾玉の結ぶ記憶
-1-

8/12


「くそっ、どこ行ったんだっ」

 こんな人込みの中を捜そうなどと言うことの方が無謀なのだろうか。寛也は人の背をかき分けながら舌打ちする。

 と、ふと疑問が浮かぶ。杳はこの人込みの中で自分達を見つけだすことができた。何故なのか。どうやったのか。単なる偶然か。

 そう言えば前に言っていたような気がする。自分達竜のオーラが見えるのだと。今まで何とも思っていなかったが、何故なのか、今頃になって不審に思った。

 ――あいつ、一体…。

 と、突然、空間が歪むような違和感を覚えた。結界かと思った途端、いきなり正面に見覚えのない少女が立ち塞がった。

 寛也は初対面であったが、それは、ここまで杳に同行していた茅晶であった。

 自分を見ている彼女を、寛也はそのまま無視して擦り抜ける。

「炎竜」

 脇を抜けようとして、茅晶が声をかけた。はっとして振り返る。

 一見、普通の少女に見えた。いや、よく目を凝らして見ると、この気は人間のものではなかった。

「杳くんなんかにかまっている場合じゃないんじゃないの?」
「何者だ?」

 くすりと笑う。長い髪に、制服と思われるセーラー服姿で、こんな時間にこんな所にいるのは、思いっきり不審な存在だった。

「本当に馬鹿よね、あなた達。何が大切かなんて、考えればすぐに分かることなのに」
「何のことだ?」
「さあね」

 意味深な笑みを浮かべる茅晶。無視して行こうとする寛也のその背を、茅晶の声が引き留める。

「あなたに力をあげるわ」

 ぞくりとした。

 背後に、それまでなかった強大な力を感じたのだった。振り向き様に構える寛也の目に映ったものは、茅晶が一刀の剣をかざしている姿だった。その剣に見覚えがあった。

「もうひとつの竜剣よ。知っているでしょう?」

 寛也の表情の変化を楽しむように、茅晶はゆるりとそう言った。

「それをどこで…」
「封じられた場所」
「何だよ、それはっ」

 謎掛けのような返答に、寛也はムッとする。

「あなた達には教えてあげない。でも――」

 剣を構える。その切っ先を寛也に向ける。

「これがあれば竜王を倒せるでしょう?竜王を…天竜王を叩き切ってちょうだい」

 竜剣を持つ目の前の少女は、とても竜には見えなかった。寛也には、茅晶は小さな妖の者にしか思えなかった。ただ、どこでどうやって竜剣を手に入れたのかが不審だった。

「お前、何者だ?」
「何者だっていいでしょ。最強の武器を与える女神とでも思ってくれればいいわ」
「ばかばかしい」

 とは言え、剣には興味があった。それが表情に出たのだろう、茅晶が楽しそうに笑んだ。

「竜王の剣、あなたには重荷かしら」
「!」

 わざと挑発でもするかのように言う。

「扱えないなら仕方ないんだけど」
「ばか言え。それくらい…」

 弾みで、手を伸ばそうとした。が、一瞬、身が怯む。


次ページ
前ページ
目次