第 7 章
勾玉の結ぶ記憶
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 人込みをかき分けて、人気の少ない所までやってきて、杳はようやく足を止めた。

「何で逃げ出したんだろう…」

 自分でも分からなかった。ただ、何かひどく悲しくなった。

 ずっとずっと、しまいこんでいたものに触れられたような気がした。

 訳の分からない、つかめない思いだったが、何故か涙が出そうになって、それで逃げ出した。

 この思いは何なのだろうか。

「…勾玉…」

 思い当たることなど、他になかった。ポケットから取り出したそれを手のひらに乗せ、眺めやる。

 これも勾玉の見せる幻なのだろうか。この玉には、そんな不思議な力があるのだろうか。

 古い、ただのお守りにしか見えないのに。

 ふと、声が聞こえた気がした。

 はっとして振り返るが、何もなかった。

 誰かに呼ばれた気がしたのに。

 胸が痛くなるような思いがした。ひどく悲しい気がした。

 振り仰ぐ空に、青銀色の天空が広がっていた。


   * * *



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