第 7 章
勾玉の結ぶ記憶
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「お前がチョロチョロしたって何にもなんねぇんだよ。邪魔なだけだ」
「邪魔なんてしてないだろ」
「お前がいることが邪魔なんだよっ!」

 また怒鳴る。先を歩いていた聖輝が、後をついて来ない二人組みに気づいて戻ってきた。寛也の声に、聖輝は眉をしかめながらたしなめるが、寛也は聞かなかった。

 寛也は、杳の顔を見ると、何故だか無性に苛々するのを感じた。

「いつもそうだ。俺達のいさかいの種は、いつだって人間どもだ」
「何だよ、それ…?」

 話の筋が突然逸れたことに、杳は眉をしかめながら聞き返す。

「綺羅(きら)もあみやも、きっかけは全部人間じゃないかっ」
「おい、結崎っ」

 聖輝の制止の声に、寛也ははっとする。自分は何を言っているのかと。記憶にない名が口をついて出たことに、動揺している自分に気づいた。

 それと同時に、訳も分からず口にした言葉に、何か、とてつもなく重いものが心の内にのしかかるような気がした。

「き…ら…?」

 聞き返す杳の声に顔を向ける。寛也の顔をじっと見ていた。慌てて、顔を背ける。

 嫌な気持ちを抱えた自分の顔を、見られたくないと思った。

「何でもない。お前には関係ないことだ。もうついて来るな」

 その寛也に、ポツリと返した言葉。

「ごめん…」

 言って、杳はそのまま駆けて行ってしまった。

「えっ、あっ…おいっ」

 あっと言う間に人込みに紛れて、分からなくなってしまった。

「…おい…って…」

 ちらりと見えた横顔がひどく悲しそうだった。

 これくらいなら言い返して来ると思っていたのに。

 何が何だか混乱する。そんなに酷い事を言ったつもりはなかった。それなのに、ひどく、自責の念にからまれるような気がした。

 杳のその横顔と重なって、目の前にちらつくものがあった。

 悲しそうに見上げてくる深い色をした瞳。誰のものか。

「…記憶、はっきりしてる、結崎?」

 動揺しているところに、横から露が声をかけてきた。

「俺達の戦いの切っ掛けがいつも人間だっての、お前の思い込み。お前、嫌ってたみたいだけど、オレ、あみやの事、好きだったもん。綺羅のことだって、お前、ずっと…」

 少し、ふて腐れたような表情を浮かべていた。

「俺達が人間に生まれ変わった理由、お前は違うのか?」

 今度は聖輝が問う。

「理由…」

 竜であるよりも、人として生きたいと願った理由。

 守りたかった。共に生きたいと思った。

 愛しくて、愛しくて、切ない思いがあった。

 自分達が今、ここにいる理由は――本当は…。

「俺…」

 唇をかみしめて、寛也は人込みに向けて走りだした。

 それを見送って、ため息の聖輝。

「やれやれ」
「ちょっと一休みしていこっか」

 露が元気よく言った。


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