第 7 章
勾玉の結ぶ記憶
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「よく、食うなぁ」
正面の席に座して、黙々と箸を動かす寛也を見ながら、聖輝はため息混じりに呟いた。が、当の寛也は不機嫌極まりない様子で、聖輝の言葉を無視した。
「どうも、体力回復には飯が一番らしいな、こいつには」
隣の席で大盛りランチを軽く平らげた露が、代わりに答えた。
潤也に攻撃され、寛也と露の二人はぼろぼろの状態だった。それを聖輝の助力を得ながら何とか傷だけは回復させた。後は体力回復にと、近くの食堂に飛び込んだのだった。
昼時だったこともあり、丁度空腹であったこともあり、また食べ盛りなことも加わって、食べること食べること。寛也は三人前を注文すると、ペロリとそれらを平らげてしまっていた。
アッケに取られている聖輝と露を差し置いて、寛也は黙々と食べるだけだった。食事の間は一言も口を利くことはなく、潤也のことがこたえているのかと、二人はそっと顔を見合わせていた。
「で、これからどうする?」
取り敢えず満腹になったので、善後策を考える余裕が出てきたのか、露が口火を切る。
潤也一人にこれだけ手こずらされた上で、竜王はもっと強いと言われれば、このまま敵陣へ乗り込んでで行ったとしても、前回同様こてんぱんにやられることは間違いないだろう。作戦が必要だった。
「他の仲間、集める?」
「誰を?」
「えーっと、木竜に歌竜…………戦力外か…」
自分から言っておきながら、露はがっくりと力を落とす。
「地竜王を助け出すにも、どちらにしても天竜王の元へ行かなくてはならないわけか」
「ちえっ。何かいい方法はないかなぁ」
テーブルに両肘をついて、手のひらに顎を乗せて言う露に、突然寛也が声を上げる。
「修行するっ」
いきなり会話に加わる寛也のその言葉の内容に、露は眉の根を寄せた。
「何言ってんだ?」
「今のままじゃ、絶対に勝てない。それならこっちが力をつけるしかないだろう」
「マジかよ。オレ、やだ」
そんなスポ根みたいな真似ができるかと、即答する露に言い捨てる寛也。
「なら、ついてくるな」
「ええっ?」
「俺は負けない。潤も、あのチビも、絶対にたたきのめしてやるっ」
鼻息も荒く、無茶苦茶を言う寛也に、露は呆れながら返す。
「…結崎、お前、杏仁豆腐を食いながら言うセリフじゃねぇよな」
「うるさいっ」
怒鳴った声は寛也の方が大きかった。
年下の二人の会話を半分以上呆れながら聞いていた聖輝が、これ以上騒がしくされるのも困りものだと、ゆっくりと口を開いた。
「修行もいいが、もっと手っ取り早く力をつける方法はあるがな」
「ホントかっ!?」
異口同音で叫んで、寛也と露の二人が同時に振り返る。修行すると今まで息巻いていたのではなかったのかと、聖輝は小さくため息をつく。
「凪がこの短期間で修行して力をつけたと思っているのか、お前ら」
「そう言えば…」
東京で会った時は自分達と同じように竜王に簡単に吹っ飛ばされていた。あの時点で自分達と力の差がさほどあった様には思えなかった。とすると、彼が力をつけたのはその後ということになる。たかだか4〜5日の間である。
「あいつは完全覚醒しているんだ。だから昔程にも力が戻っている。それに比べお前ら、記憶すらも曖昧な、半覚醒のままじゃないか」
「そっか。昔くらいの力が出せるだけでいいんだ」
ポンと手を打って、露が得心したように聖輝を見上げる。さすがは年上だと、妙なことを感心しながら。
「十分だろう」
「で、それはどうすればいいんだ?」