第 7 章
勾玉の結ぶ記憶
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 巫女の持っていた勾玉は、杳が今持っている物を含め全部で5つあるが、それはかつて巨大な竜を封じた神器なのだと言い伝えられていた。

「巨大な竜って?」
「殺戮の竜神よ。天竜王よりもずっとずっと力が強くて大きな竜だったらしいけど、勾玉を使って封じたのよ」

 その、封じた者が竜の宮の神官の始まりだと伝えられていた。そのため、他の人間と違って竜達を見ることができたあみやが巫女になったのだった。直系であった兄をも退けて。

「もしかしたら杳くんにも、あみやと同じ力があるのかもしれない」

 そう言って杳の顔を覗き込む茅晶から、杳はプイッと顔を背ける。

「…そんなものじゃないよ、きっと」
「え?」
「きっとこいつの…」

 呟くように言って、杳はポケットから勾玉を取り出した。茅晶は思わず身を引く。

「勾玉の見せるものだよ。オレには…」

 そんな力などない。そう呟く。

 しかし、胸の奥底で何かがざわざわとうごめいているようにも感じられてならなかった。

 何かを訴えるような、何かに追い詰められでもするかのような、そんな気がした。それが何であるのか、手を伸ばせば届きそうなのに、伸ばすのが怖い気がした。

「杳くん、大丈夫?」

 考えに落ちそうになった時、ふと、茅晶が声をかけてきた。顔を向けると眉を寄せている茅晶がいた。

「疲れてるんじゃない?ずっとなんでしょ、竜王を追いかけて」

 突然に、思ってもいなかったことを口にする茅晶に、杳は目をしばたかせる。

「何よ?」
「あんたでも人のこと、心配するんだ」
「なっ、何よっ?悪い?」

 茅晶は多少、頬を赤らめる。そんな茅晶に、小さく笑ってから杳は答えた。

「いや、別に。そうだよな、あんた、人間だもん」
「ちが…」

 言い返そうとする茅晶の言葉を遮る。

「翔くん達と一緒だよ。人に生まれて、人として生きてきて。もう忘れなよ、昔のことなんて。人を恨んで生きるのってつらいだろ。あみやもそんなの望んでないよ、きっと」
「かっ、関係ないでしょ、あなたにはっ」
「そうだけど」
「私の事には口出ししないで。何も知らないくせにっ」

 茅晶はそう言いながら、杳を睨む。その目尻ににじむものを見つけて、杳は視線を逸らす。

「…ごめん」

 そのまま黙って窓の外を見た。流れる景色の向こう、竜の雲は既に南へ消えていた。


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